第317話 縁故
ぴょーん、ぴょーん♪
二人の会話が終わりアメジストの部屋を去ろうとしたジャニスティの高い視界の隅になんだか可愛い影がピョコピョコっと見え、彼は少し下へと視線を向ける。
「ん?」
「ふーっは、んぱぁッ!」
気付いてもらいたいと跳ねた妹はキラキラに輝く瞳で兄を見ている。その愛らしい眼差しと目が合った瞬間に彼はクスッと、笑う。
「あぁクォーツ、ちゃんと見ているよ。どうした?」
「お兄様は、おでかけ~なんですの? いってらっちゃぅです!」
「はは、ありがとう。行ってくるよ。クォーツはお利口さんで……そして、ゆっくりとお休み」
「はぁーいですのぉ!」
にっこにこのクォーツは「おやすみなさぁーい♪」と覚えたての言葉を元気いっぱいで、話す。その姿を見たアメジストもまた微笑みながら一日の終わりの決められた挨拶を――お休み前の言葉を、小さな声でジャニスティへと伝える。
「では、ジャニス。一日お疲れ様です。今日も本当にありがとう」
「いえ、アメジスト様。私の方が、感謝申し上げます」
労いの言葉をかける彼女とそれに丁寧な一礼で挨拶をした彼。
いつもと変わらぬ台詞と、いつもより穏やかな空気が漂う、そんな夜。
ふわぁ。
その一瞬、通じ合うかのように。
此処に吹いてくるはずのない心地良いそよ風を感じた二人は不思議と見つめ合った、その時――。
「ん~……きゃぅ!!」
「キャッ!?」
「おぉッ!」
「にぅ♪ お兄様ぁ、お姉様ぁ」
二人の想いを繋ぐように片手ずつ、可愛く小さな両手に握られる。
「クォーツってば」
「はは、驚いた」
「うにぃ! だぁ~い好きぃ♡」
顔を見合わせ笑い合う三人には目に見えぬ“生命と心”の繋がりがある。それは何者も入り込む余地のない、深く固い絆。
ふぅーと息を整え直した二人は改めて、挨拶をする。
「……おやすみなさい、ジャニス」
「お休みなさいませ、アメジスト様」
クォーツが手を振り先にアメジストの部屋へと入ってゆくのを笑み見送ったジャニスティは部屋の前を後にする際、アメジストへ「安心して、良い夢を……」と落ち着く声で、囁く。
「――っ!」
同時に彼の手は彼女の頬へ。
細く美しい指先が優しく触れ、広げた大きく温かな手のひらはアメジストの桃色に染まった頬を包み抱くように撫でながら、数秒。
「戸締りをお忘れなく。それではまた、明日の朝お迎えに上がります」
名残惜しそうにゆっくりと離れていく彼は再度“ベルメルシア家の大切な御嬢様”へ深々と、お辞儀をした。
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