第318話 役割


 キィー……カチャリ。


(たとえ自分の想いに気付き、誰よりも愛おしい存在だとしても。私はこれまで通りお護りし、お嬢様の幸せを一番に願う。これは何があろうと、自分の命ある限り変わることのない)


「それが私の務めであり、信念だ」

 ジャニスティは自身の心にそう強く、刻む。


 “キラッ――『セキュリ……ィ』”


 彼女が無事に部屋へと入ったのを確認した彼はその重厚な扉を静かに閉め、いつも通り警護魔法をかける。



 部屋の中――。

 精一杯の笑顔で黙って頷き自室へと入ったアメジストは今、閉じた扉へと身体を寄せその場に座り込む。


 目を瞑りぎゅっと握る両手を胸に当てドキドキと高鳴る鼓動を感じた彼女は心にある特別な想いに驚き戸惑い、瞳が潤む。


(私、貴方ジャニスの事を――)

 真っ赤になってゆく自分の顔をアメジストは両手で顔を抑え隠す。


「……わたし……どうしよう……」

 気付かないふりをしてきた“ある感情”。


 熱く燃えるように、これまで抑えてきた気持ちは一気に溢れ出していた。



 アメジストを部屋へと送ってから後の時間――夜半よわ前。


 ジャニスティは当主オニキスを書斎まで迎えに来ていた。そこにはオニキスと執事であるフォルが翌日の仕事に関する打ち合わせを、円滑にこなす。その後ろで待機するジャニスティは真っ直ぐと立ち微動だにせず当主と執事の話を、黙って聞いていた。


「よし、それでいこう」

「では、先方にもそのようにお伝えしておきます」

「あぁ、任せるよ。フォル」


 無駄のない会話と呼吸で流れるように仕事の話を終わらせる。それからフォルの視線を感じたジャニスティは自身の役目にのっとり、動き出す。


(何処も異変はないな)

 安全確保――彼は胸を撫でおろす。


 書斎は特殊な堅い結界が常に張られているが外出の際は念入りに結界の確認をする。完了したであろうジャニスティのホッとした表情にオニキスは、声をかけた。


「待たせたね、ジャニス。行こうか」

「いえ、旦那様。本日もお疲れ様でございます」


「エデ様も着いた頃でしょう」

 二人に続き口を開いたフォルは先程とは違い、どこか柔和な顔をしている。


「そうだな……出来ることならフォルにも参加してもらいたい会合だがね」

「恐縮でございます。しかしながら、旦那様」

「あぁ、解っている。すまないが、よろしく頼む」

「承知いたしました」


 オニキスとフォルの言わんとすること。


 それはジャニスティ含め夜更けにこの屋敷を皆で留守にするのはあまりに危険と、そういう事である。

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