第369話 光粒


「クォーツ、いいのよ。私は自分で出来るから……」

「いいですの~♪ お姉様すきすきぃ~キレイキレ~」

「あ、あり、がとぅ……でも」


 レヴシャルメ種族の成長は恐らく人族と変わらないものと、考えられている。世間の持つ憶測に間違いがなければ全回復をした今のクォーツの年齢は背丈や見た目から五、六歳くらいだろう。


 その幼いクォーツが自分には元気な姿ばかりを見せてくれるが心奥では気を遣い本当は無理をしているのではないかと、心配になる。


「ルにぃ~♪ んたっ」


 しかし彼女の思いとは裏腹にクォーツは「お兄様の代わりにお姉様を守る」と兄であるジャニスティのことを思いながら、意気込む。


――パァ……キラッキラキラ。


 喜びにも似たクォーツの強い責任感が形として現れたのか?

 風呂中に広がる真っ白ふわふわモコモコ泡のあちこちから美しい光の粒が生まれ、キラキラと煌めき始めたのだ。


「え! クォーツ」

(泡が……光ってる!?)


 にこにこ笑顔のクォーツの頭の中にはジャニスティからの『嬉しいお願い』と喜んだ“お守り”としての役目が、生きている。未だ抱える恐怖や淋しさをも上回る“血の繋がりはない”家族の愛――信頼の証だと幼いながら感じていた。


 その想いが力となり大きく羽を広げたクォーツの全身から表現される、夢想の世界。それはまるで――太陽の力を受け入れ水面を舞い踊る、白鳥のように。


「ぅ~うぅ♪ キレイキレーィ」

「えぇ、とても綺麗で……本当に素敵だわ」

「お姉様、うれし? わぁ~い」


(不思議ね。辛い思いをしたのはクォーツのはずなのに……私の方が勇気づけられているみたい)


「クォーツ、そろそろ流しましょうね。湯船に入って暖めなくちゃ、身体が冷えてしまうわ」


「ながしましょ?」

「そう、こうしてあったかいお湯をかけて」


 “バシャっ、パシャパシャーッ”


「んっきゃー! これはポカポカ、あったかいーですのね!」

「えぇ、ポカポカ暖かいお湯で流しましょう~です」


「分かったですー! お湯……あぁぁぁ!! 泡あわわぁ~のフワフワさんが、消えていくのです」



  クォーツは自分以外の者が怒ったり悲しんでいたりするのに敏感。周囲で感じた暗い雰囲気を漂わせた負の感情と心の変化に反応しそれを消そうと相手を明るくさせ、喜ばせようという力が働く。


 無償の愛と平和を――。


 これはジャニスティの部屋で初めて三人が元気な姿で顔を合わせ笑い、心通わせたあの一時ひとときにも、クォーツがしていた行動の一つであった。

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