第256話 深謝
「それで、そのぉ……ジャニス?」
「はい? いかがなさいましたか」
「うん、えっと私、貴方にきちんとお礼が言いたくて」
身に覚えのない言葉に「お礼?」と不思議そうに少しだけ首を傾げた彼に目を合わせ笑顔で再び、話し始めた。
「あの夜、貴方が決意してくれたこと――自身の立場もあって大変なのに、私のわがままを聞き入れてくれて」
アメジストがどうしても伝えたかった感謝の気持ち、それはクォーツを救助した日のことであった。
「それは違います。アメジスト様のわがままなどということは、決してありません」
「でも私はあの時、目の前の命を助けたい、その一心で貴方の言葉に耳を貸さず冷静さを失っていたわ。それでもジャニス、貴方は私を信じクォーツの事を『一緒に助ける』と言ってくれたから。でもそれがまさかジャニスの命を危険にさらしてしまうだなんて――」
「問題ありません。現にこうして今、此処に私が生きていられるのは他でもない、お嬢様――貴女が行動して下さったおかげです」
「……うん、ありがとう。ジャニス」
目を細め優しく微笑んだアメジストの瞳から涙は零れないものの少しだけ、潤んでいた。
「いえ、私の方がお礼申し上げたい。この世界で地に足をつけ生きる者として、“正しい”ことを、大切なお心を。貴女の勇気ある行動が教えてくれたのです。あの瞬間、冷酷な私の嫌な部分を消し去ってくれたのですから」
「ジャニス……」
「相手を敬う心、そして困った者が目の前にいて助けられるのであれば、どうするべきなのか。厳しく諭し、そして私の負の心が闇へと堕ちていかぬよう“護って”下さった。本当にありがとうございます――アメジスト様」
「わ、たし……が」
(ジャニスの心を、護れたの?)
「えぇ、あの時に向けられた固い意志の言葉と強い眼光。怖いくらいに、私の胸に刺さりましたよ」
「ん、ぇ……もぉ! 怖いだなんて! ジャニス!!」
「ははは、すみません。怖くないです」
再度目を合わせるジャニスティは揶揄い口調で、話す。
これまでより深く温かい光に包み込まれた、馬車内。穏やかな力が広がると同時に、笑う。
「お二人とも、よくここまで成長なされたものですな」
エデはまた聞こえぬ声で小さく、呟くのだった。
「ありがとう、ジャニス。そして、ありがとう――可愛いクォーツ」
――『
感謝の意を伝え合う二人の間で眠る
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