第154話 固持



 ベルメルシア=ベリルはどのような人物だったのか?


「生前の頃は自分が働く前で、知ってはいたが話したことはない」という者や、中には彼女ベリルの存在を知らない者もいる(それは歳の若いお手伝いだと、なおさらだ)。

 現在働く者の大半は伝統ある『ベルメルシア家のお茶会』に従事したことがなく当然、その作法や在り方を知らないのである。


 ベリルがこの世を去ってからの約十六年間。ベルメルシア家で長く働いてきた者たちはこの屋敷で茶会が開かれることはもう、二度とないと思っていた。それはスピナがこの屋敷へ来てからというもの「よそ者を大勢敷地内へ入れるなど危険」と異常なまでに外部との接触を、拒んできたからである。


 しかし今回なぜ? スピナは固持してきた考えを突然、変えたのか。


「一体、奥様は何を企んでいるのか」と、そう心底思っているお手伝いも少なくはない。が、しかしその真意は全く見えず、掴めずのままノワが主導を握り初めてとなる招宴の準備が今まさに、進められようとしていた。



「な、何? このわたくしが……使用人ごときに」

(心を乱されているですって!?)


 その発狂しそうなスピナへ立ち向かうラルミの目力は、強い。それは朝にも見覚えのある、視線。

(なぜあの子アメジストと同じ目をする!? 鬱陶うっとうしいわ!)


 スーッ……。

 その時、部屋にいる皆の身体に冷たいものが触れる。


「風が、吹いて?」

 そう、お手伝いの一人が呟く。


 皆が沈黙する中、凍るような冷たい空気が真っ直ぐと流れた。それはスピナが激昂寸前だった炎を一瞬で鎮火するようにヒンヤリと冷静な、声色。


「ラルミ様、少しお言葉が過ぎます」

――スピナ専属のお手伝い、ノワである。


「は……ぃ。ノワ様」

 本当は恐いはずのスピナへ発言をしていたラルミは反骨心で冷静さを失い半ば勢い任せで本音をぶつけていた。それをノワの抑揚なく感情のこもっていないような声が彼女の正気を、取り戻させる。


「あらノワ。さすがね」

 分かっているじゃないと言い落ち着きを取り戻していくスピナの姿に周囲は、ホッとしていく。


「恐れながら申し上げます。この者たちは奥様直々じきじきにご教授なさるような相手ではございません。どうかこの場は、私にお任せを」


「ふふ。確かにそう、無駄な体力を使うところだったわ」

「はい、奥様」


 顔を立てるかのような内容をサラッと口にしたノワの言葉にすっかり気を良くしたスピナは、怒りで歪みかけていたのが嘘のように勝ち誇った表情で、小さく笑っていた。

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