第406話 顕在
『それからもう一つ。この花には意味があるのですが。ジャニスティさんはご存知かしら?』
彼はベリルの口調から秘密とされた話を自分へ続けてくれるのかと少し驚いた様子で、答える。
「えっ……はい、存じております」
ジャニスティは会合時にオニキスが話した、息をしていないベリルの枕元にあったというオレンジ色のマリーゴールドの印象を『ほのかな甘い香りが勇気づけてくれているようで癒され、冷静になれた』と言っていた。それを念頭に置きつつ「思い浮かぶ花言葉がもう一つ」と、口を開く。
「私が、書庫にて見つけた古書に――『花の四季色彩と心』という本があります。その中でもひと際目立つ色鮮やかに描かれた花の絵、解説として書かれた文章の頁にあったのが、オレンジ色のマリーゴールドでした」
『まぁ! あの本も見て下さっていたなんて……ジャニスティさんは本当に、此処にあるたくさんの書物に目を通しているのですね』
「い、いえ。全てに目を通せているわけではな――っ!」
(ベリル様とアメジスト様。当然のことながら、そのはにかむような笑顔がとてもよく似ている……)
嬉しいと喜び微笑む彼女の柔和な表情にまた彼の心はアメジストを想い、瞳の奥に映す。少しだけ胸が熱くなるのに気付いた彼は気持ちを隠すように“コホンッ”と咳払いを、一つ。
何事も無かったような表情で話を続ける。
そんなジャニスティの様子を見るベリルには彼が愛娘へ抱く想いを、察していた。
「私は、浅学の身です。しかし今はこのように学べる場にいさせてもらえることにとても感謝しています。広く浅くですが……それでも多くの文学に触れたいと思っているだけですので」
『ふふ……えぇそれでも。何事も前向きに成長しようという姿勢は、生きてゆく上で必要なこと。
「……お褒めいただき、光栄です」
『事実ですから。さて、あなたも知る、もう一つの花言葉ですが』
「――【予言】」
『えぇ、そうです。アメジストを無事出産した後、私はずっと抱えていたある方への疑念を、ラルミへと打ち明けました』
ベリルの言葉に一瞬で真剣な顔に戻った彼は一言、花言葉を言う。それに続き彼女は自身がラルミへ頼んだ約束事についてまた、淡々と語り始めた。
『お気付きかもしれませんが。その方とは、スピナ様の事です』
「――ッ!!」
(やはり、か)
彼は太もも辺りで隠すようにし、右手を強く握る。
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