第198話 本棚
――『花の舞う言葉たち』
十年間この場所を訪れて気が付かなかった、その一冊。しかし今は本棚にあるそこだけが光輝くように見え彼の瞳には特別な本のように、映り込む。
自然と手に取り何気なく開いた
(これはまた、珍しい。絵……ではない、写真だ。ということは、想像で描かれた訳ではないのか。遠い昔には、白の種類もあったのだろうか?)
そう彼が疑問に感じるのも、無理はない。
マリーゴールドの花は鮮やかな色彩の黄色やオレンジ色の種類が主だ。今でこそ品種改良もされ白系の花もあるらしいと噂を耳にしていたジャニスティであったが改めてその本を閉じ、表紙を確認する。
(やはりこの本……新しくはないと思うのだが)
指で触れた時の質感、古いインク独特の甘い香り、そして見るからに古いに違いないと感じる背表紙もまた
その不思議な感覚は彼の好奇心をさらに、くすぐった。それからまた頁をパラ、パラ、とめくると見ていた頁に戻り写真の花を、見つめる。
(どういうことなのだろう。現代でも、こんなに透き通るような純白のマリーゴールドを、見たことがない)
「マリー……」
無意識にその一言だけ呟きしばらくの間、
誰も近付くことのない書庫は心地良い静寂に、包まれる。ジャニスティの意識はその花について丁寧に記された説明と写真だけに集中していた、その時。
――『ベルメ苺のミルクティー、とても美味しかったわ』
ハッ!!
「お嬢様ッ!?」
見つめる本の世界に美しく咲く可憐なマリーゴールドから瞬時に目を離すと、どこからともなく聞こえてきた声の方へ振り向く。
その視線の先は彼が見つけたあの、隠し扉だった。
我に返るジャニスティはどうやら自分の心が響かせた優しい
それはあの時、スピナに見られぬようアメジストを部屋へ帰すため案内した隠し扉の前で彼女から伝えられた、お礼の言葉であった。
「さて、行くか」
キィ……カチャン。
(私もまだ、全快とまではいかないようだ)
いるはずのない彼女の声に自身の疲労を感じつつも、ふと感じた幸せに笑みを
それはおよそ四、五分程の出来事であったが彼は、此処での時間を二、三時間にも感じていた。
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