第381話 陽光
キラッ――。
(ん?)
花についての本や参考書が綺麗に並べてある奥の本棚前で一心不乱に文字を追い続けていたジャニスティの視界が一瞬、白くなる。それは棚と棚の間から射し込む昇ったばかりの
「――あぁもう、朝か」
誰もいない、来るはずもない場所――離れにある書庫は皆、あまり立ち入らない。それが逆にジャニスティにとっては好都合でありその理由は、おかげで
知らないことを学び知見を深める時間は自分自身を高め成長させる。吸収したことで価値観も、視る世界も変化しいつしかそれは自信や喜びへと変わっていった。
そしてふとした時、手に取る
――それは空っぽだった心を埋めてくれるかのように。
多くの書物で学問的知識の習得を目指し、時には安らぎの一つとして虚構の物語が描かれた文学書を読みそのまま無意識に瞼を閉じる日々。
不思議と穏やかになれる書庫はいつの間にか彼にとって、自室よりも安心して眠れる場所になっていた。
パラ……パラパラ、ぱたんっ。
「駄目だ、見つからない。手掛かりになりそうなものは何一つ此処には」
顔を上げると薄暗かった書庫内が変化していくのに気付く。
(早いな、外がずいぶんと明るくなってきた)
今ジャニスティの前に並んでいる多くの書物はこれまで、彼があまり熟読せずただサラッと挿絵を眺め流し読みしていただけの本――“花”に関する本ばかりである。
当然ながら探し調べるにはいつもよりも多少、手間取っていた。
シャラン――カチッ……。
「きりが悪いが」
胸ポケットから出した懐中時計で時刻を確認すると「仕方ない」、そう呟き手に持っていた本を棚へ戻すと扉に向かう。
(やはり、枕元にあったという花の示す意味を探すより、ベリル様がご健在であった頃に深く交流のあった人物で、話せそうな者を探した方が早い……か……)
「んっ?」
顎に手を当てながら思案し歩いていた彼はハッと、思い出す。
(まただ、あの感覚――この棚の前に来るといつも何かを感じる……)
「そういえば昨日、見つけたあの本が確か――」
カタ、カタン……コトッ。
「あった、これだ」
昨日急いでいるにも関わらず誘われるように寄った際、この本棚で見つけた本。
――『花の舞う言葉たち』
それがこの“花言葉”の書かれた本であった。
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