第221話 信任
――『お嬢様に必要な教養全ての教育とお護り役としていつも、お嬢様の傍で指導し見守っている方』
そう、ずっと。
“冷たい表情で無口(冷静沈着)”だと、ジャニスティの事をお手伝いたちやベルメルシア家にいる他者も含め、思っていた。それは良くも悪くも彼を見た目で判断し第一印象で、決めつけていたのだ。
いつからか皆の心に植え付けられていた、先入観。
しかしそれは勝手な思い込みであったと今此処にいる全員が、気付く。
ラルミや他のお手伝いたちは「そんな自分たちが突然言うのは、不快な気分にさせないだろうか?」などの懸念を持ちつつも思い切って、ジャニスティへ残りの作業を自分たちに任せてほしいと、提案したのである。
――心配していた思いとは裏腹に彼は笑み、応えてくれた。
しかしこれはあくまでも仕事としての話。単なる優しさなどではない――その内に結ばれたベルメルシア家で働く仕事仲間としての信頼関係で成り立っていた。
それを重々理解しているお手伝いたちだからこその、喜びの反応だ。
「ジャニスティ様、あとは私共にお任せ下さいませ!!」
ラルミは自分の顔の前で両手をグッと握り使命感に、燃える。その一生懸命な彼女の姿と意欲の込められた声にジャニスティの表情はさらに和らぎ、口を開く。
「あぁ、皆に頼むよ。とても助かる」
お手伝いたちの本音は――日々忙しいジャニスティの手を自分たちのせいで
しかし彼自身にそのような考えは全く、
その深く安心感のあるジャニスティの寛大さをお手伝いたちは感じ取り、その思いに応えようと懸命に指示通り、動いていたのである。
この時ジャニスティはふと、思い出す。
(そうだ、朝も……)
早朝に、オニキスへの報告するため通った通過。
クォーツを抱き黒の
「では、ジャニスティ様。私共はこれで」
「あの、今日はありがとうございました!」
「ジャニスティ様、道中お気をつけて」
「あ、あぁ、すまない。皆ありがとう」
――『私などに挨拶をする者がいるはずは……』
あの瞬間に感じた不思議な感覚が今も、彼の中で。
キィー……ガチャッ。
ジャニスティは残りの指示を終えると自室で一人勉強をさせ待たせているクォーツの元へ急ぎ、向かう。
「此処には、心優しき素晴らしい方ばかりがいたのだな」
そう小さく、呟きながら。
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