第220話 有限


 横目でそちらへ視線を向けた、ジャニスティ。

(あぁ、あの女性。前当主ベリル様が、まだ御健在の頃から働いている者だと聞いているが)


「そういえば、話したことはなかったな」


 注意をしているはずなのに「はーい、頑張ってー!!」という威勢の良い口調があまりにも意外で彼はフッと、笑ってしまう。


 そしてなぜか今見るこの光景に、安堵していた。


「あぁ、そうでした! 皆、時間を見て」

「そうですよ、せっかくジャニスティ様が作って下さった時間ですのに」

「夕食まで……よし! 通常業務もありますからね。頑張りましょ!」


 皆珍しく、各々の仕事を楽しそうにしているがこの日は当然、いつも以上の慌ただしさだ。それでも信じられない程に生き生きとしているお手伝いたちの姿は眩しく、輝いて見えた。


 しかし作業が進んだとはいえ日々の仕事もある皆に、時間の余裕はない。ずっと、手を動かしながらの会話であった。


「明日の作業予定も考えなければ、か」

 ジャニスティもここまで、と思っていた作業を手早くこなす。


――んっ?

(何か、気配がする)


 ふと警戒を強めるとお手伝いのラルミが彼の目の前へ、現れた。


 緊張した面持ちで佇む彼女。


「何だ、どうしたのだ?」

「いえ、あの。ジャニスティ様! ここは私がやりますので」

「ん? 大丈夫だ。それより君は、依頼した食器の選別を――」


 そこまで彼が言ったところで他のお手伝いたちも側へ、駆けてくる。


 そして――。


「お早く、クォーツお嬢様の所へ行ってあげて下さい」

「この広い御屋敷に来て、その……初日からお一人では、きっとお寂しい思いをされていることと思います」

「ジャニスティ様、もうすぐアメジストお嬢様のお迎えもございますよね」


 スピナの厳しさが無くとも元々優秀なことで有名なベルメルシア家の、お手伝いたち。気配りができ状況判断も出来る者ばかりが、集まっている。


――時間は、有限です。


 ベリルの残した言葉をベルメルシア家で働く者たちは大事に想いそして、時間の大切さを身に沁みてよく知っているのだ。


 だからこそどんなに忙しくともジャニスティの事を察し、声をかけずにはいられなかった彼女たちの行動は、さすがと言えるだろう。


 これには目を見開き一瞬驚く顔を見せたジャニスティは少しだけ微笑むと、皆の気持ちに応えた。


「ありがとう」


「「「――わぁっ!」」」

「良かった! 良かったです」

「さぁ! 頑張るよー」


 ジャニスティの柔らかな顔と返事に皆は手を上げて、歓喜する。

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