第10話 準備


 アメジストは迷いを捨て涙を拭うと、ジャニスティの指示通りに動いた。


 ただただ「その子を助けたい」一心で。


「そちらの小部屋に濃茶色のチェストがあります。二段目の引き出しに青いシートが――」


 ジャニスティの指示は細かく、そして的確。余裕のないアメジストでもスムーズに準備を進める事が出来た。言われた通り引き出しから青いシートを取りベッドへ広げた瞬間、ふわっと瞳を奪われる。


(なんて綺麗な青。キラキラとしていて、まるで海のようだわ)


 その美しい疑似海を見つめ、ふと心にゆとりが生まれた。その青いシートを見てなぜか? 落ち着きを取り戻したアメジスト。急ぎつつもジャニスティの顔を横目でうかがう。


 彼の表情はとても辛そうだった。これからやろうとしている魔法がどれだけ大変なものなのか、アメジストには予想もつかない。


――ジャニスがあんな顔をしているのを見るのは初めて。そんな辛そうにしていると、私も胸が苦しくて息が出来なくなりそう。


 しかし今自分に出来る事を精一杯やって、彼に協力したいと思っているアメジストは「きっと大丈夫」と呟いた。


 それからベッドに運ばれたその子。息はしているが声をかけても動かず目を開けることもない。それはとても危険な状態を意味していた。


(私はジャニスの指示を、完璧に!)


 大きめの深皿を手に持ち、ジャニスティの横へ座り話しかける。


「ジャニス、お皿はこれで良いかしら?」


「……えぇ、大丈夫です。そこに、キャビネットにある瓶の中身を入れて下さい」


 この瓶もまた青く美しく、しかし何が入っているのかは分からない。指示通り瓶の中身を入れようと、蓋を開けゆっくりと傾ける。すると綺麗な硝子の深皿に透明の水が流れ出た。


(お、お水?)


 深皿半分程に透明の水を入れ、ベッドの横にある小さなテーブルに置く。そしてジャニスティへ準備を終えた事を伝える。


「ジャニス、入れたお皿はこちらへ置きます。言われたところまでの準備は、出来ましたわ」


「ありがとうございます――それではこれより、復元魔法を開始します。お嬢様はここを離れて下さい」


「ここで一緒に……居てはだめ、なのね?」


「先程申し上げたように、明日一日お暇を。時間がかかりますし、見せられるものではありません。お嬢様はご自分のお部屋へお戻り下さい。この部屋を出る際は、周りに十分お気をつけて」


 冷たい視線と集中力、しかし温もりを感じる彼の瞳。感じたのはジャニスティの強い想いだった。

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