第200話 真偽


「いやいや、オニ……あっ、えっとですね、ベルメルシア様。待って下さい」


 フォルの忠告が功を奏したのか。

 先程まで“オニキスさん”と馴れ馴れしく呼んでいたカオメドは“ベルメルシア様”と言い換え口調も丁寧に、戻っている。しかし肝心の質問している内容についてはっきり、答えようとしない。


『おい、あの商人……許可なく店を出しているのか』

『えっ!? 急に祭典の時間が早まったのも、あの人が?』

『ベルメルシア様がご不快になるのも無理ないわね』

『なんだ、あの話し方。嫌な感じだな』


 さらにざわつきを増してきた周囲の空気に少しばかり慌てるカオメドは自分の開いた両手を顔の前で大きく左右に振り、否定の姿勢を見せ始めた。


「そんな、違うんですよ! 皆さんもそんな僕の事、怖がらないで下さい。おかしいですよ、ねぇ? 僕はこの場所を借りるための手続きを」


「カオメド君。私の聞いている質問はそんな小さなことではない。もっと広く考えを――」


「あぁーほら、見つけた。あの人! あそこで品出しをしている人から、昨夜遅くにんですよ。皆さん、待っていて下さいねぇ」


 突然変化する、カオメドの表情。その飄々ひょうひょうとした顔は「自分に落ち度はない」という口調でオニキスの言葉をサラッと、受け流す。


(やはり、妙な男だ)

 ジャニスティが裏中庭で感じていた異常さと同じ感覚に、オニキスも陥る。

 その嘘のようで本当のような、言動の数々。カオメドの姿はまるでその場に適応した色に変わる、カメレオンのようだ。


 怪しい、したり顔な余裕の笑顔で自身が店を出している場所へと歩き中へ入った彼は、一分も経たずに皆の前へ戻る。


 その手に持つ、紙には――。


「ほら、これで良いですか、ベルメルシア様? 間違いなく、今日の祭典で発行している『販売者出店許可証』ですよねぇ」


 ザワザワ――ッ!!


 この日午前、早い来訪により朝食後すぐに急ぎ行われた商談。

 しかしその商談相手であるカオメドが説明した“商売のやり方”がこの街とは合わないと感じたオニキスは即座に今回の契約は見送ると、結論付ける。


 自分が成功してきた事業方法(魔法)を断られた事実が信じられないとよほど悔しい思いをしたのか? オニキスとの商談後、客間を去る際に彼はある一言を放っていた。


――『まだ終わっていませんので。しかし一旦、この場は失礼しますよ』


(なるほど……そういう意味だったか)

 この瞬間、思い出された彼の言葉がオニキスの頭をスッとぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る