第51話 囁声
しばらく通路を足早に歩き、この空間にも慣れてきた頃。ふと何かの音が聴こえてるのに気が付く。それはまるで“音色”のようにアメジストの耳元で囁くのだ。
しかし注意通り、振り向かない、話さない。
「ジャニスの言っていた、ベルメルシア家の者にしか……というのは、こういう事だったのかしら?」
通常何もない場所で音色。
そんな出来事があると怖くて悲鳴でも上げそうなものだが、彼女はというと――。
(不思議。この“音”怖くないのよ)
アメジストはジャニスティの言葉を思い出しつつ、聴こえてくる音色には何かメッセージがあるのではないか? そう自分なりに読み解き、解釈をしていく。
そんな自由で柔軟な発想を持つ彼女の頭に浮かんでくるのは、良き思考ばかりである。
――解読は出来ていないけれど、特別な何かを感じられる……それってとても素敵な事じゃない?!
「うっふふ、明日ジャニスとゆっくりお話する機会があれば、報告しなくちゃ」
(パタパタパタ……)
アメジストは笑顔で後ろに腕を回しとても楽しそうに進み歩く事、数分。
ようやく雰囲気の違う場所へ出てきた。
「此処、ジャニスの言っていた、静かで何もないような感じの所だわ……」
出口が近いのだろうか? 少し薄暗く寂しい雰囲気の冷たい場所に着いていた。明るい気分で楽しく通ってきた通路が恋しく思えた彼女は無意識に、ボーッと気持ちが後ろへ向いてしまう。
――その時!!
『歩き始めたら絶対に後ろを振り返らない』
優しい信頼の声が聞こえた。
「アッ! 私ったら」
ジャニスティの声が頭の中で響き助けられた。我に返ったアメジストは自分の心に気付き、驚く。
「どうして……でも何だか」
何故か今、彼女の心には後ろ髪引かれるような思いが押し寄せ、後ろを振り返りそうになっていたのだった。
(考えてはダメダメ! 早く出なくちゃ)
ジャニスティから渡された懐中時計に触れ気持ちを落ち着ける。そしてカチッと開くと時間を確認。お昼時まで三十分、何とか間に合いそうだ。
「行こう」
そう思い
それは継母への、恐怖心。
幼い頃は「おかあさまぁ~」と傍へ寄り母親の愛情を求めていた、アメジスト。しかしその冷たい視線と強めの手でいつも跳ねのけ邪険に扱われていた。次第に『自分は愛されていない』と気付き、今では辛い記憶しかない。
そしていつの頃からか笑顔はもちろん普段の会話すら、無くなってしまったのだ。
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