第310話 未知


「お嬢様、今夜はお手数をおかけしますが……よろしくお願いします」

「えぇジャニス! 任せて!!」


 アメジストは嬉しそうに桃紫色の潤んだ瞳を輝かせ、答える。そのあどけない彼女の太陽のような笑顔に見惚れるジャニスティの心奥は熱くなり、思わず目を細め彼自身も微笑みそうになったが、しかし。


 今は大切な話をしなければいけないのだと感情をグッと抑え表情を引き締めると、続きを話し始めた。


「ありがとうございます。しかしながら、アメジスト様。レヴシャルメ種族であるクォーツの行動は、依然として予測不可能な点も多い。それに加え、この子が持つ魔力と能力はまだ計り知れない状態……時間が不足しているのもありますが、いわば未知の存在です」


「そう……うん。理解しているわ」

(ジャニスの言う通り。ただ一緒にいられるからと、喜んでいるだけではいけないわ)


「故に、私が不在の間はなるべくお嬢様へご迷惑のかからぬように少しだけ、クォーツへ注意を――」

「そんな、迷惑だなんて……私は大丈夫よ」


 アメジストは控えめにそう言葉を返したが内心「何か予想もつかないことが起こってしまったらどうしようか」とほんの少しだけ、不安になる。


 その理由は自分がレヴシャルメ種族についての知識がほとんどなくまた、クォーツの事を知らなさすぎるというその現実が、今の彼女に自信を喪失させていったのだ。


「うにぃ? ちゅうーん?」

「いや、クォーツ。『ちゅうん』ではなく『注意』だ」

「ちゅー……ちゅい……あっ! ちゅういぃですね!! お兄様それは、“だいじなお約束”の時のことですね」


「あぁ、その通りだよクォーツ。分かってくれて嬉しい。これから私が話すことをしっかり聞いて、今日から守ってほしいんだ」


「ぁい、お兄様!」


 言葉の擦り合わせ、アメジストはクォーツの目覚ましい成長にホッとし不安だったことも、忘れる。そして元気いっぱい一生懸命に彼の話へと耳を傾ける可愛い妹クォーツの姿を見てクスッと、微笑んだ。


「本当に素直で、お利口さん」

 そんな彼女の声を聞きつつも彼はクォーツの瞳を見つめ、話す。


「クォーツ、今夜はアメジスト様が一緒にいて下さることになった」


「んきゃ!! うれッ――」

「……静かに」

「んモゴモゴ……?」


 アメジストの部屋前は、静かな通路。

 周囲に誰もいないことはジャニスティの空間察知能力で確認しているが、クォーツの興奮した喜ぶ声を聞きさすがに彼は妹の唇を人差し指で抑え声を、止めていた。

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