第309話 心配


 素敵で楽しい時間は、あっという間。


 これまで経験したことのない夕食後の談笑に、とても有意義な時間を感じたアメジストは夢のようなだったと、嬉しくなる。


 それは心がポカポカと満たされた、初めての思い。


「皆さん、本当にありがとうございます」

 ふと口から出た言葉は、心の声。

 アメジストは笑みそう、呟いていた。


 それからしばらくして皆が片付けを始めるとジャニスティはアメジストを部屋まで、送っていく。



 コツ、コツ、コツ……カチャリ――。


 いつも通り何事もなく到着した、彼女の部屋。鍵を開けたその扉前でジャニスティはアメジストへ、声をかけた。


「お嬢様、本当によろしいのですか?」

「もちろんよ、ジャニス。だって夜もずっとクォーツと一緒に過ごせるなんて、すごく嬉しいわ!」


「しかし……」


 心配そうに聞くジャニスティの目にはアメジストが願うように両手を組む姿と胸躍るような返事が、聞こえる。少し安堵した彼はその視線をクォーツへと、移す。


「んなぅ~ふゅ♪」


 兄の心つゆ知らず。

 クォーツはすっかりご機嫌。

 信頼する二人の前だからか? 完全にレヴ族の言語を使い満面の笑みでルンルンと身体を揺らし歌う。そんな可愛い妹に彼は思わず顔を綻ばせるもまたすぐに「ふぅ……」と悩む顔で、溜息をついた。


「んふ。ねぇ、ジャニス? そんなに心配そうなお顔をしないで。だって、クォーツはとってもお利口さんで、それに――」


 ぎゅぅぅぅ。


「きゃふ~♪ おねぇさまぁ大好きぃ!!」

「まぁ! 私も大好きよ、クォーツ」

「えっほぉーん読むのです! 楽しみなのぉ~」

「うふふ、そうね。いつ読もうかなぁ……これから? おやすみなさい前がいいかしら?」


 きゃっきゃっ♪


(ずいぶん昔から、一緒に過ごしていたようにしか見えないな)

――本当に、不思議だ。

 出会ったばかりとは思えないその仲睦まじいアメジストとクォーツの触れ合う様子にジャニスティの硬かった表情もふんわりと、緩む。


「クォーツ」

「きゅぅん?」

 そして右膝を床につけるとクォーツへ目線を合わせ、ゆっくりとその白くふわふわモチモチな可愛い妹の両頬へ自身の両手を、添えた。


「ジャニス、大丈夫? どうしたの?」


 見慣れないジャニスティの行動に今度はアメジストが彼の事を心配そうに見つめ、声をかける。するとジャニスティはスッと顔を上げクォーツと並んで立つ彼女へと、瞳を合わせた。


 そしていつものように安心感のある、優しく穏やかで低すぎない声で彼は、話すのだ。

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