第360話 岨道


「話は理解した。が、仮にそれが真だとしてだ。これまで胸にしまい沈黙してきた“その何者か”が、信頼を寄せるベリル以外に、今さら口を割らんだろう。確証もない想像、お前はその事実をどう解明しようというのだ?」


「えぇ、仰る通りです」

「すまない、責めているわけではないのだ」

「もちろん承知しています。私はそのようなこと、思ってもいません!」


 ベリルに関連する話は彼の人生において何よりも重要な事。こうして神経質になるのも無理はない。平静を心掛けるオニキスであるが少しだけ厳しい口調になってしまっていたことに気付き、謝る。しかしジャニスティにとっては自分の意見を二人に聞いてもらえるだけで有難いと、そういう思いであった。


「坊ちゃまの推察、あり得るお話ではありますが……」


 しかしながらと悩み始めたエデは腕を組み、考え込む。

 ジャニスティには彼が言わんとしていることが分かっていた。


(そう、茶会は三日後だ。準備に使えるのはたった二日……それでも)

「私に一つ、考えがあります」


「考え、か?」


「はい。これはあくまで今思いつく方法としてお話しますが、ベルメルシア家で日々、花の世話をする者や、または花に精通する者。他、ベリル様がお元気でいらした頃、密に関わっていた者。それを調べる許可を頂きたく存じます」


 ジャニスティの言葉に驚いた表情で顔を見合わせたエデとオニキスはさすがに無謀だと、彼を止めようとする。


「坊ちゃま。それを実行するには、あまりにも時間が」


「ジャニスの考え自体に、否定の言葉はない。それは我々が君の能力を認めているからだ。そして依頼すれば君は必ず何かしらの答えを見出してくれるだろう。だが今は、エデの言う通りだと思うが」


 どんなにジャニスティが迅速、優秀であったとしてもたった二日間で調査し証拠を上げるのは極めて困難だと、諭す。


 しかし彼はなおも強く、許可を求めた。


「解っています。それでも、架空の人物かもしれない“その者”がいると信じたい。そして探し出せれば……過去と今、未来の全てが繋がる気がするのです」


「なんとも敵いませぬな、坊ちゃまには」


「ふぅ……」

――心は同じ、なのだな。

(誰に似たのか。自ら険しい道を選ばずとも良いと言っているのだが)



「やはり、同じ種族だから……か」


 まだ勢いが勝っているようにも見えるジャニスティの変化。その頑張り過ぎる性分はエデにそっくりだと二人に聞こえぬ声でオニキスは小さく、呟いた。

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