第147話 商談


 商談が始まるとオニキスは腕を組み微動だにせず、彼の話を無言で聞く。


 じっと黙っている状況を「話を聞いてくれている」と勝手な解釈違いをしているのか? カオメドはこれは都合が良いと言わんばかりに遠慮することなく、流暢に話し続けた。その言葉遣いも挨拶時とは打って変わり一切お構いなしの口調になっている。


「――美しい羽織に使用する羽毛! これがまた手に入らないんですよ」

「……」

「それでですね、オニキスさん! 他の町ではもう在庫がなくなるという異常事態で、飛ぶように売れているんです! ふはは」


 カオメドは意見を求めることもなくただ一人で楽しそうに話すと、どれだけ自社の製品が優れているのかを説明する。


 彼の売り込みはそのまま二十分程、続く。


 その間ずっとオニキスは『腕を組み無言で話を聞く』――つまり『相手を警戒し信頼していない。聞く気半分だ』という冷めた姿勢を崩していないのだが、それを目の前にしてもなお話し方に変化はなく、どうやらオニキスが言わんとする真意にも気付けていない様子である。


「ふぅ……」

 商談が始まってからオニキスは初めて彼に目を合わせあわれむような視線を向けると一つ、深い溜息をついた。


(いくら若いとはいえ、これまで彼に指導する者はいなかったのだろうか)

 ここまでくると彼の事を「誰にも注意してもらえず可哀そうな青年」と同情までしたオニキスであるが、それはまた別の話。仕事上そのような感情移入は、必要ないのである。


 そしてカオメドの説明が終わろうする頃、起こった出来事。それによってオニキスとフォルが感じていた直感は、現実のものとなる。


「――というわけでして、さぁ見ていて下さいよ、オニキスさん! この手に宿る力を!!」


 パァァー!!


(やっと尻尾を出したか)

――なるほど。これが「半年程で急成長を遂げている商社」のからくり、か。


「凄いでしょう!? いやこれ、ここだけの話で、僕だけが使えるこの魔力」

「さて、カオメド君」


 彼が興奮気味に語る自慢の途中、その言葉を遮るようにオニキスはいつもの爽やかな笑顔でニコッと、話しかける。


「はい! 解っていますよ~!! では、こちらの契約書にサ……」

「いや、まずは本日遠い所をわざわざありがとう、感謝するよ」

「いえいえ~そんなことより早く! こちらの契約書へお目通し下さい」


 これ程、見るに堪えない無礼な者と話す経験したことがなかったオニキスは怒りを通り越しさらに深い、溜息をつくのであった。 

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