第395話 心痛
(そうか……だから先程の言葉だったのか)
――お嬢様への愛を話される中で、知るはずのない髪型にも触れていた。
赤子だったとはいえ自分がお腹を痛めて産んだ娘の髪色や、白い肌を覚えているのは当然だ。しかし成長したアメジストの特徴である“くるりと巻いた可愛らしい髪型”について『巻いている髪』と言ったことを彼は、不思議に思っていたのだ。
(ということは、ベリル様はスピナの行った悪事についても、少なからず知っているのだろうか?)
そこでハッとしたジャニスティは前を向き光輝くベリルの姿を捉える。そして吸い込まれるように翠玉色の瞳と視線が合うとニコリと、笑顔を送られる。
『ジャニスティさん、どうかなさいまして?』
「いえ、その……ベリル様。もしや、貴方様はご存知なのですか? ベルメルシア家の現状を。あの……スピナ様の事も」
数十秒、間が空いた後。彼女の見せていた笑みは力なく消えまた悲しそうな表情に戻ると、答えた。
『えぇ、知っていますわ。もちろん全容が見えているわけではありませんが』
「……」
(なんと声をかければいいのか。私には分からない)
一体ベリルはどこまで気付き知っているのか、そもそもがどの情報を見聞きしたとしても姉妹のように仲の良かった者の裏切り行為は知るであろう。その心身への苦痛は同じことだろうとジャニスティは無意識に、目を伏せていた。
『でもね、ジャニスティさん? だからこそこうして姿を形で現すことが出来るくらいに魔力を取り戻し始めた私が、今出来ることは何かと模索しているのです』
そう言うとベリルはスッと近付き彼が抱きしめるように持っていた本――『花の舞う言葉たち』にキラキラと透ける右手で、触れる。ふわりと風にめくられてゆく頁を彼は静かに、見つめていた。
「先程……書庫を出ようとした際、何かが引っかかりこの本の前へと足が向いて、気付けば手に取っていました。それからは太陽の光に導かれるように、貴女の元へ……」
『そうだったのですね』
ジャニスティは自分がなぜその本を抱えそして隠し扉内に入って来たのかを自然と、説明していた。その内容を聞いた彼女はまた優しく微笑み本をめくりながらゆっくりと目を、瞑る。
静かすぎて流れを感じない
「ベリル様。私は今、とある花について調べています」
そして彼は意を決しベリル本人へ確認するべく、話し始めた。
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