第215話 家柄


 名家や旧家と呼ばれる家柄の者がいる場所には自然と、皆が集まる。


「十数年前までは、家柄を重んじる時代でねぇ。スピナさんが卒業してすぐ、彼女が旧家の名を失くした後からは皆、離れていって……」


 先生の話を聞いているうちにスーッと冷たい風が吹くように頭をぎった、ある光景。それは朝に起きた“揉め事”でジャニスティがスピナへ発した言葉。


――『貴女も。私と一緒なのでは?』


(ジャニスもご家族はいないと聞いているわ。もしかしたらだけれど、スピナお継母様と自分が一緒とは、そういう意味だったのかも)


 悲しみ傷付き悲哀に満ちた当時のスピナはそれでも笑顔を絶やさなかった。が、しかし周囲の態度は今までと百八十度変わりまるで腫れ物を扱うように接し、彼女へ進んで声をかける者はいなくなった。


 そんな中ベリルだけはこれまでと何も変わらず話しスピナとの交流を、続けていたのだ。


「ベリルお母様はスピナお継母様を……心から慕っていたのですね」

「えぇ、そうね。少なくとも私には、そう見えていましたよ」

「家柄……今の私は、とても幸せですね」


 同じ時間、しかしゆっくりと流れるように感じる時の中で先生から語られる思い出話にアメジストはやはり、戸惑いの表情を隠せない。


「今やこの学校は分け隔てなく、地域の指定もなく、多くの方から愛されています。そう、アメジストさんにも、たくさんの素敵なご友人がいらっしゃいますね」

「はい、皆様とても仲良くして下さいます」


 ふんわりと笑みを浮かべ頬を染めるアメジストを見た先生もまた微笑む。しかしまたすぐその表情には陰りが見え始める。


「その後も私はお二人――ベリルさんとスピナさん、どちらともお手紙で近況を話していたのですが。ある日を境に、連絡が途絶えてしまって」


「ある日?」

「スピナさんが『ベルメルシア家に居候させてほしい』と、お願いをした日です」


「では、スピナお継母様はずっと……」


「いいえ。確かその時期は、ベリルさんがご結婚なさった数ヶ月後。ご存知でしょうけれど、お母様であるベリルさんは『全ての者に慈愛と言える優しさを持つ人』です。お慕いするお姉様スピナさんのお願いは、すぐに快諾したと」


 そして先生は「優しいだけではなく時には強さも。そんな素晴らしい子だった」と付け加え、話す。


 早くに両親を亡くしていた、ベリル。


 その為スピナが懇願した時にはすでにベルメルシア家当主として立派に家を守っており決定権は、彼女ベリルが持っていた。

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