第105話 当主
アメジストとクォーツが楽しそうに話す様子にムッとした顔をするスピナは「目障りよ」と、誰にも聞こえぬ小さな声でボソッと呟く。その和やかな光景を睨むスピナの視線は冷たく、刺さるようであった。
「――んっ?」
しかし勘の良いスピナはふと、違和感に気付く。
(あのジャニスティの妹という子とアメジスト。妙に距離が近いわね)
今ここで会ったばかりの二人があまりにも仲睦まじく――まるで本当の姉妹のような雰囲気を醸し出してくる。それは逆にスピナの目を光らせ、疑念を抱かせた。
「何かが、おかしいわ」
――あの子、本当にジャニスティの妹かしらねぇ?
ナイフのように鋭い目つきでクォーツの事を見ているスピナを横目で捉えたオニキスは一瞬、顔をしかめる。
(あの目。それに何か
表情に気付かれぬようすぐにいつもの顔に戻ると窓から吹く心地良い風に乗せた右手を、ふわり。
差し伸べた先のスピナへ優しく、話しかけた。
「スピナ、君も此処へ来ないか」
それを聞いたスピナは「はぁ?」と、とぼけた顔をすると鼻で笑う。
物腰柔らかに声をかけるオニキスはこのベルメルシア家当主。スピナの責めを浴びることなく彼女に意見や命令も出来る、人物である。
その高飛車な彼女の態度にも全く動じることはない。
「あら! あなた、驚きましたわ。
どういう風の吹き回しかしら? と
「そうかい?」
「えぇ、そのような無意味なお気遣いなど一切! いりませんわ」
たったそれだけの返事にもスピナの声で場の空気は、張り詰める。
「ははっ、それは残念だ」
オニキスは怒っても良い状況であろう。が、しかし笑みを浮かべ「心地良い風にあたると落ち着くんだが」と眉尻を下げ、アメジストとクォーツに微笑む。
「結構ですっ!!」
いつもであれば甘ったるい
「スピナ様、お言葉が過ぎるようですがな。旦那様にこれ以上の失礼は、許されませぬぞ」
見るに見かねて厳重注意をした者――スピナが唯一この屋敷で逆らえないと感じている、執事のフォルである。
「くっ……」
下を向き黙りこくるスピナはボソボソと独り言を言い始めた。その微かな声を一部だけ聞いたジャニスティの警戒心はさらに、上がるのであった。
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