第379話 正邪



【蘇生魔法】


 その名の通り、心臓の鼓動が停止した状態の者に生命を取り戻させるため施す魔法である。しかし今の世でこの蘇生魔法の使い手はいないとされており、そもそもが書物に残る想像上の魔法――幻想ではないか? と「蘇生は夢の魔法」と伝えられてきた。


 そんな中でラルミが明かした、驚きの“極秘事項”。

 伝説めいたその魔法であるがその中でも『ベルメルシア家血族のみが使うことの出来る蘇生魔法』にはいくつかの条件が必要となり、それはただ単純に強い魔力さえがあれば出来るというものではないこと。


 そして当然ながら蘇生――『死者を生き返らせる』との魔法による行動には倫理的な問題も関わってくるため、ベルメルシア家の血族が継ぐとされる完全なる治癒魔法の先にある『本当の力(蘇生)』については、隠されている。



「アメジストお嬢様の魔力開花が、どこまで知れ渡るのか? 私には予測不可能ですが。ただ一つ言えるのは、そのお力を“本当に必要とする者”だけではなく“利用しようとする者”もいるということを、お忘れなきよう……」


「道を踏み外す者がいる、それはわたくしも理解しています。しかし、それでも……」


 アメジストは視線を上げハッとし、口籠る。

 それはいつも優しく明るく接してくれるばかりだったラルミから哀愁が漂ってきたからだ。その辛そうに軽く唇を噛みしめた彼女の表情には悲痛な思いがひしひしと感じられてきた。


 ズキン――。

(ラミ、何か……苦しんでいるの?)


 ベルメルシア家に受け継がれる力の真実をなぜラルミは知っていたのか? そんな疑問もぎったがそれより何よりその秘密を自身の胸に独り抱え込み続けることがどんなに大変なことだったろうかと、アメジストは心配する。



(お嬢様は、お優しすぎるのです。かつてのベリル様と同じように)


「アメジスト様の笑顔、その良さにつけ入り、悪用しようという者は必ず現れることでしょう。それもこちらが気付かないように親切で、気さくな声掛けなどで隙を作らせ、近付く……」


――慈悲深く他を思いやる愛心に満ち溢れたベリル様と同じように。聡明なアメジスト様も、このままでは狙われてしまう。


「ラミ、何かあったのですか?」


 彼女の言葉にハッとしたラルミは心配かけまいと表情を戻し、話し続ける。


「いえ、私の話はまた。お嬢様、この世で魔法を扱うには、善悪……正邪であることを冷静に判断することが、必要不可欠です」


 その言葉に彼女の背中には、緊張が走った。

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