第140話 進路


「それではジャニスティ様。道を変えますが、よろしいですかな」

「あぁ、頼む」


 今いるこの場所から進路を変え、学校まではだいたい三十分程かかる。


 しかしジャニスティにとって想定の範囲内であり焦ることは、全くない。それは何事にも瞬時に対応できるよう常々、不測の事態を念頭に置いて動いているからだ。そんな彼は時間にも厳しく早めの行動を、心がけている。


「では、出発いたします」

 エデもまた動じない落ち着いた声で、中にいる三人へ声をかけた。


 思わぬ出来事だったが今日は道中、クォーツがいる。アメジストが馬車で過ごす時間もあっという間に過ぎるであろうとジャニスティは二人を眺め、安心する。


「んう! お姉様、大好き~!」

「うふふ、ありがとう」

 その思惑通りアメジストとクォーツは睦まじく、会話を楽しむ明るい声が馬車内を包み込んでいく。


 カタカタ、コットコトコト……。


 いつもと違う学校までの、道。

 エデもあまり通らない所であったがとても綺麗にされた良い道で、馬車の車輪は振動もほぼなくなめらかに、流れるように走る。


 アメジストも「いつもと違った道」の静けさに内心ないしん、興味が湧いたが、しかし。そんな彼女の好奇心を言わずとも感じ取るジャニスティは安全面を考慮し念のため人通りの多い街側のカーテンは開けないように、と二人へ伝えていた。


 その後、彼は「万が一、何かあった時のため」と防御魔法をかける。


(ジャニスは過保護だから。でも、本当に感謝しているの)

「ありがとう、ジャニス」

 心の声が漏れるアメジストの言葉に少し驚いた顔で見つめ返したジャニスティはフッと笑いかけ、応えた。


「いえ、お嬢様。私は貴女様をお護りするため此処にいます。それに……」


 紅潮し話を聞くアメジストへ、ジャニスティからもう一言。

「これは私自身の意志や想いを、含めての行動です」


 そう付け加える。そんなジャニスティとの会話は彼女を幸せな気分にさせた。


 それからしばらく、レヴ族の言葉をうっかり使ってしまうクォーツが『えほん』について質問し、アメジストはその言葉に「可愛い」と言いながら、答える。


 穏やかな時間トキ、談笑をしながら道を進んでいた、その時――。


「……え」

(何かしら、この感じ。寒いような、恐いような。妙な胸騒ぎがするわ)


 それは突然に起こった。

 彼女が理由もなく感じた、物恐ろしさ。


「お嬢様」

 不安気なアメジストを心配そうに見つめ、囁き声で声をかけたジャニスティの表情もまた、険しかった。

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