第237話 一番


 ジャニスティは一言呟きそれ以上何も言えず頭の中が真っ白になる。店の入口に置かれた靴拭きマットに足を置いたまま呆然と扉の前で、立ち尽くす。


「エデ様。そんな、大好きだなんて……お恥ずかしいです」

 店の女性が自分の頬を両手で包み、笑顔で答える。その顔を見つめるクォーツは『さっきの自分と同じ』と感じ両手を広げ喜ぶ姿勢を取ると女性に、笑いかけた。


「ふあぁはッ!? それは“ハズカシイ”ですのね!! ほっぺたポカポカぁは、私も一緒ですの! 嬉しくて楽しい♪」


「えっ……うふふ。そうですわね、ありがとう。ポカポカして、嬉しいです」

 幸せそうな視線をエデに向ける店の女性の頬はさらに、真っ赤になる。


「はは、クォーツお嬢様は本当に可愛らしい。そして、そう言ってもらえると私も嬉しいがね。なんだか、恥ずかしくもなりますな」


「んなぅ? みんなみんな、恥ずかし恥ずかしいッ! 仲良しぃ~」


 エデはクォーツの歩みに合わせ歩き、少し砕けた言葉を使いクォーツの理解しやすい、分かりやすいよう話を続けていた。


「ねぇねぇ、エデおじちゃま聞いて下さい! 私は、お姉様とお兄様が一番好きですのぉ♡ えっへへ~」


「それは、素敵なことで」


 クォーツとエデはそう言うと扉の前に立つジャニスティの方を、見る。


 その二人の動きに自然と店の女性も扉へと目をやり、そこでもう一人の客に気付く。立ち尽くす彼の存在に先程以上の明るい声と表情で嬉しそうに、話しかけた。


「まぁ! もしかして!!」

「あっ、貴女は……そう、なのか」

「えぇ、そうですよ。ジャニーも来てくれたのね」

「……あぁ、うん」


「ウぅ~ん?」

 いつも冷静沈着な兄、ジャニスティから感じたことのない戸惑う姿をクォーツはとても不思議に思い首を傾げ兄の表情を、うかがう。


 その様子を見ていたエデはフッと優しく笑み、口を開いた。


「さて、クォーツお嬢様。遅れましたが、私の大好きのお相手をご紹介しましょう。こちら、私の一番大好きで愛する妻の“マリー”でございます」


「クォーツお嬢様。お初にお目にかかります、マリーと申します」


「えーっとえっと“ツマ”は奥様なのです! わぁ~!! エデおじちゃまの一番大好きで、うーんと“大好き”は“愛する”……ですの?」


 クォーツ自身まだまだ、話し言葉を勉強中である。

 並外れた賢さと理解力に長けているとはいえ、ひと族の言葉とレヴ族の言葉のすり合わせを独りで勉強し実践しようというのは、さすがに少し無理があったのだ。

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