第238話 久遠
◆
マリー、見た目は七十代後半。
夫であるエデと、昔からの知人(アメジストの通う学校の先生など)は実年齢を知っているが
容姿は小柄で可愛らしい印象の、肌は健康的な色白だ。少し巻かれた短い銀髪は艶があり上品にまとめられ、その立ち姿は歳を感じさせない程に背筋が真っ直ぐと伸び、美しい。
店に入った際クォーツを落ち着かせたあの優しい声は聞く者の心を穏やかにする効果があり、柔和な笑顔は温かい雰囲気を持ちすべてを受け入れ包み込む心の広さを、感じさせた。
ジャニスティが兄と呼ばれた夜、妹クォーツのため『洋服を見繕ってほしい』とエデに依頼。その後に届いた品物はエデとマリーの二人が選定したものだった。急で時間がなかったにも関わらず手を抜かない良品が可愛いのはもちろん、洋服は採寸したかのように寸法が適切。
そしてジャニスティは他も期待以上の内容でとても、驚く。
布袋には靴や髪飾りといった小物、さらに文具品まで揃えてあっただけでなくその中身が入っていた布袋はなんと二通りの使い方を備えた、機能性のある手作りの鞄だったのだ。これはエデの表情も誇らし気になり話していた、彼女の温かな心遣いが垣間見える出来事であった。
そんなマリーはアメジストの母ベリルが生前――まだ十代で学園に通っていた頃に授業を教えていた先生であり、もちろんスピナとも面識がある。
その後、十数年前に学園を退職しこの街での様々な活動に率先して参加しながら今はこの宝飾店を、切り盛りしているのだ。
誰もが羨む程、仲睦まじい夫婦だと評判の二人だが実は、種族が違う。
エデの最愛の妻は――“
◆
新しくベルメルシア家のお嬢様となったクォーツとの挨拶を終えたマリーは店の中を、案内し始めた。その緩やかに流れる時間にただただ黙って眺めるジャニスティの瞳はどこか切ない表情を、浮かべる。
「どうしました?」
「いや、何でもない」
まだ彼が“ジャニー”だった頃――エデから様々な指導を受けた、厳しい三ヶ月間。その中でも語学に関しては元教師でもあったマリーが、教えていた。その後“ジャニスティ”との名を与えられ送り出されエデの家を出てから、約十年。
親のいない彼にとってエデとマリーは血の繋がりよりも深い、まるで父と母のような存在だ。
しかしベルメルシア家でお嬢様専属お世話係となってから彼は一度も、エデの家へ帰っていなかったのである。
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