第74話 初見
「もう結構よ! 好きにしなさいよッ」
バターン、バンッ! カッカッカッ――コツ、コツ……。
スピナは目に鬼火を燃やすかのように怒り、言葉を吐き捨てる。そして急ぎ足で外へ向かうと壁に当たり開いたままだった扉を激しく閉め、オニキスの部屋から出て行った。
「はぁ、まったく。いつも嫌な思いをさせてしまってすまない、ジャニス」
「いえ、私は――お気になさらないで下さい」
「そういうわけには……ただ、なぜあんなに短気ですぐに激高するのか」
「旦那様の方こそ、大変なご苦労をされていることと存じます」
いつもであればスピナの行動をそう重く考える事のないオニキスであるがこの日は奇妙な胸騒ぎがし、無性に気がかりであったのだ。が、しかしすぐに気を取り直しジャニスティに気さくに笑いかけ、向き直る。
「はっはっは、君に心配されては大変だ! さて、朝食まで時間もない。本題といこう、
そう言うとオニキスは部屋の奥にある応接ソファに手を向け、案内する。いつかの名で呼ばれたジャニスティは少し、驚いていた。
「……旦那、様?」
「すぐに分かったさ。その黒の美しい
「――?!」
「ははっ! そう驚くな、ジャニー。此処には私たちだけだ、普通に話して良い。さぁ、座りなさい」
お茶は出せないがねと冗談を言い場を和ませるオニキスは笑いながら、先にソファに座る。
その様子を見たジャニスティは驚きの顔から「そうだ、当たり前の事なのだ」とすぐに、安堵の表情になる。オニキスとエデ。自分よりも長い付き合いの二人である。まだまだ知らない事や理解していない事は山のようにあるのだなと改めて、気付かされた。
「ではオニキス。貴方がそう言って下さるのであれば、仰せのままに」
そう返事をしたジャニスティは着けていた漆黒色のシルクマントを、外す。
――ぶわぁっ!!
「……うっふふ」
「な、何という? これはこれは――私の予想を遥かに超えるような、案件だったようだね」
さすがのオニキスもジャニスティの腕から降ろされる可愛らしい
それを確認しつつジャニスティは若干の緊張を悟られぬよう平静を装いながら、話し始めた。
「クォーツ、ご挨拶を」
「ハイッ! お兄様」
変わらぬ満面の笑みで答えるクォーツには、見上げたものである。
「お兄……? 今、なんと――」
オニキスの顔から笑顔が消える。真剣な眼差しでクォーツの高い声に、聞き入り始めた。
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