第240話 真赤


「はっはは、そんな困惑することはない。今日は話せただけでありがたい」

「あぁ、いやっ、しかし」


 トン――。


「ゆっくりでいい。考えてくれるかい?」

 戸惑った様子のジャニスティの肩にふわりと手を置くとエデは話題の最後をこう、締め括る。


「……はい、ありがとうございます」

 その優しさにジャニスティは嬉しそうに笑み頷きその胸は、熱くなっていった。それはまるで身体中の血液が流れを加速させ、巡っていくように。


「そうか、良かった。いや、急な話ですまなかった」


 笑顔で顔を見合わせ二人は一旦、この話を終わらせた。そしてエデは彼に「良ければマリーとも話してやってくれるかい」と声をかけ再び、歩き出した。


「エデ……」

(貴方は本当に、強い。力だけではなく、その心も)

――同じサンヴァル種族だからとか、そんなの問題ではない。


「ねぇ、お兄様も早く! とてもキラキラ綺麗ですのぉ」

「あぁ、今行くよ」


 エデとマリーが話し始めたことでクォーツの意識が兄であるジャニスティの方へ向く。初めて見る様々な天然石(宝石)に彼女の心はくすぐられ、喜んでいた。


 その姿に目を細め穏やかな返事をしながら奥へと進む彼はふと、足を止める。呼ばれるように心はお洒落な楕円形をした美しいガラスケースに飾られたひとつの宝飾品に、惹き寄せられる。


「……美しい」

――まるで、お嬢様の瞳のようだ。


 思わずそう無意識に心の中で呟いた自分の言葉が信じられず一瞬で顔が、赤くなる。訳の分からない緊張と恥ずかしさ、そしてふわふわとした感情が彼の頭を悩ませていた。


「綺麗でしょう? これは“紫水晶”――お嬢様の煌めく瞳と同じ色」

「――ッ! ま、マリー!?」


 気を抜いていた、というよりもすっかり素に戻っていたジャニスティは再度、驚く。今の彼にとって此処はどこよりも安全な場所だと心から認識したということであろう。マリーが近くに来ていることに全く気付けなかった。


「うっふふふ。ジャニーは心がお顔に出やすいのが、今でも私は心配。だってこんなに真っ赤になって……」


「あ、赤くなどないです! ただ、美しい石だと――」

「はぁい、りんごさん」

 マリーもまたエデと同じく安心感に包まれる表情で言葉をかけ、微笑む。


「うみゅ? お兄様は、真っ赤かぁ~の、りんごさん?」

「ちがっ! クォーツ!! その言葉は、覚えなくて良いんだよ」


「あらあら、うっふふ」

 二人のやり取りをまるで兄妹を宥める母のようにマリーは、二人を抱き寄せた。

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