第109話 棘毒


「お茶会……で、ございますか?」

 スピナの言葉にアメジストは一驚を喫する。


 「ふふっ。そうよ〜嬉しいでしょう?」


 そう言うと含み笑いでジャニスティに一瞬だけ目をやるスピナは口角を上げ、まるで勝ち誇ったような口元をしていた。


(何だ、このおぞましい空気と圧は――)


 先程までの冷酷な雰囲気とは打って変わり甘い声でいかにも優しい“母”を演じる、継母スピナ。滅多に見ることのないご機嫌の表情に驚いているのは、アメジストだけではなかった。


「ん? お茶会とは。どういうことかね、スピナ」


 耳を疑うような突然の話に鋭い眼つきで聞くオニキスは懸念の表情をあえて、隠さない。



 ベルメルシア家で代々引き継がれてきた、社交の場。

 それは数百年に渡り続く季節の景色を楽しむ、茶会である。


 アメジストの母ベリルが生前の頃に開いていた茶会は、月に一度。皆の笑顔が溢れる素晴らしい日であり、大切な時間とされていた。ベルメルシア家の庭に咲く美しい季節の花々と共にベリルが準備する、お茶とお菓子。そこには多くの種族が集い笑う声と穏やかな雰囲気が、流れていた。


――素敵な茶会であったことは未だ多くの者たちに幸せな記憶として伝えられ、街でも大変有名な思い出話であった。


 その後ベリルがこの世を去ってからのベルメルシア家で、招宴の催しは全てなくなった。理由としてはスピナが外部者を屋敷へ立ち入らせることを異常に嫌い、拒んでいたからだ。


 そこまで拒否し続けてきたはずのスピナが突如、上機嫌で笑みを浮かべ提案してきた茶会の話。


 この時、食事の部屋にいる者たちの中で驚きと不信感を持たなかった者は恐らく、いなかったであろう。


「あ~ら、だってあなた。もうアメジストも十六歳ですのよ? そろそろ社交の場を経験させてあげませんとねぇ」


 ニヤッと笑う顔を隠すように広げた扇には彼女を表す“スピナの花”が刺繍されている。白とピンクの花弁五裂の中に一枚だけ、青色の花弁はなびらが縫われている。


「不気味だ」

(一体、何を企んでいる?)


 そう小さく呟いたジャニスティの顔はとても固く、その嘲笑にも見えるスピナの表情を不快に感じた、しかし考えていることが全く解らず眉をひそめ警戒する彼の顔色は、変化する。


 不穏な動きをするスピナの心が見えぬ不安。対話をしているアメジストも同じであった。


「あ、あの……」


「あらアメジスト。そんなに怖がらないで」


 その嘘で固められた眼差しと声はスピナの花が持つ意味を、思わせた。

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