第8話 謝罪


 アメジストは涙を浮かべ、毛布の中で少しだけ落ち着いて見えるその子の背中に触れようと手を伸ばした。が、しかしハッと何かに気付き手を引っ込めた。


 そしてぽろぽろと涙が頬を伝い、床を濡らすほどに零れ落ちていく。


(なんて事なの。体中が傷だらけで、羽の部分には血がついているじゃない)


 そして途切れ途切れの小さくかすれた声で、アメジストは泣きながら呟く。


「とても……痛かったね、苦しかったよね。ごめんね」


――その時に、助けてあげられなくて。


 正義感の強いアメジストだが、もちろん自分の今持つ力ではどうする事も出来なかったというのは、理解している。もしその場にいたとしても、自分も助からないだろうし、助けるのは不可能だったと。


 しかし思う気持ちは本気である。助けたいという思いが涙と共にうるうると美しい瞳から溢れ出てくる。襲った者たちへの憎しみではなく、そのような者が同じ世界にいるという哀しみ。その胸が張り裂けるような心の言葉を吐き出すように――涙は止まらなかった。


(もしも、レヴ族を襲った種族が、私と同じ……人だとしたら?)


 そう思えば思う程、アメジストの心は謝罪の気持ちでいっぱいになっていく。


 事件は捜査中でまだ捕まっていない。今のところ分かっているのは多数での犯行であろうという事。どのような種族が、どのような目的だったのか?


 本当の事は未だ分からないのだ。


「こんなに小さな身体で頑張ったの? こんなに可愛い子をなぜ……辛い思いをさせてしまって、ごめんね」


 繰り返し呟き、深い哀しみの涙を流すアメジスト。

 大粒の涙が、宝石のようにキラッと光って落ちるのが見えた。


 その瞬間、ジャニスティの心の迷いは吹っ切れる。


「お嬢様。急ではございますが明日あす、お暇をいただきたい」


「うぅ? グスッ。それはどういう事です?」


 突然ジャニスティが発した言葉に驚き動揺する。その裏にどんな思いがあるのか、いつものアメジストであればすぐに察した事だった。なぜなら彼女は、周りの大人も一目置くほどに思考(考察)力が高く、主に情報を処理する能力にけているからである。


 しかし――。


「これを実行するには、旦那様や奥様にではなく――アメジストお嬢様。貴女様の許可と同意、そして協力が必要不可欠なのです」


 感情がたかぶり乱れた状態で話を聞くアメジストには今、分析する余裕がない。言葉の意味を考え理解する力が追いつかず、彼が何を言おうとしているのか?


 全く分からなかった。


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