第140話 殲滅魔法

 一気に高度を上げ飛翔するメイス。そのスピードはスキルブックにより飛行魔法を覚えた俺達よりも群を抜いていた。


「オラッ、グズグズしてると巻き込まれるぞっ!」


 ラディッツオの怒声で俺達も反対方向へと飛び立つ。この中でメイスの全開のジョブレベル8の魔法を見たことがあるのはラディッツオだけだ。

 そのラディッツオの警戒ぶりに思わず期待も高まる。


 むしろこれが決まらなければ勝負にすらならないかもしれない。メデスの言い回しでは蛇神のやや格上くらいで俺達にちょうどいい程度の話だったがそんなモンじゃねーだろアレは。

 天変地異クラスの厄災じゃねーか、本当に信用ならない相手だ。


 だが、それでもこちらも最大火力のメイスの存在については伏せておいた。

 惜しむらくはまだ「スキルブック作成」スキルではジョブレベル8のスキルブックは作成できないこと。


 ―つまりは、この戦いはファーストコンタクトがクライマックスだということだ。


 頼んだぞっ、メイス。


 ユキの敵発見が早かったこと、敵の巨大さに比べ我々人間は矮小であることも含め、流石のドラゴン達でも俺達をまだ確認できていない。

 魔法使いのジョブの中でも最も長い詠唱が着実に刻まれる。


「火水土風、雷氷光闇、その力、人智の元に統合し、森羅万象すべてを破壊する嵐となる。終極せよ、殲滅魔法ファイナルエクスプロージョン!」


 吹き荒れる暴風に熱が帯びる。出来うる限り距離をとっていてこれだ。


 そして、

 

 

  ――――――――――――――――


 爆心地として選ばれた黒龍を中心に円形の大爆発が起こる。あらかじめ耳を塞いでいたのに芯までやられたのかその爆音は感知できなかった。


 しかし、その光景は眼を見張るものだ。爆心地から半径数百メートルにも及ぶ焦土。光で目に被害が出ないようにその瞬間は見逃したが確かにその破壊の爪痕が窺える。

 念の為のユキのプロテクトがなければこちらにも実被害が出ていたかもしれない。と、とんでもねー。

 これがジョブレベル8ってどんだけジョブ格差あるんだよっ、書記はこちとら『高速手記』だぞっ。どうなってるんだっ!


 皮肉はひとまず置いておこう、、。これではメイスもただでは済まないのではと思ってしまうが、この魔法は本人を守る防壁もセットでその心配はないとあらかじめ説明を受けていた。


 俺達パーティーメンバーだけが街から出て、ここで野戦に出たのも全てはこの魔法ありきだ。

 頼むっ、形勢が決まるほどの成果であってくれっ。


 不用意に近づかず煙が晴れるまで様子を窺うとメイスを発見したのでひとまず合流する。


「ハァ、ハァ、ハァ。」


「お疲れ様です、メイス。後始末はこちらでやるので一旦下がって休んでください。」


 流石に疲労困憊のようだ、事前説明でも殲滅魔法はMP消費が凄まじく一度が限界と聞いていた。

 戦力としてはもうカウントしないほうがいいだろう。

 

 飛行魔法の維持もツラいだろうとアイテムボックスに入れることも考えたが、そのメイスの目は爆心地から離れていなかった。


「ハァ、油断するな、。」


 メイスの言葉の後に続くようにユキも声を上げる。


「いるわよっ!!ドラゴンは8体撃破確認!けど、、黒龍を中心にドラゴンの生存を確認。障壁を張られたってことかしら。」


 煙が晴れて来ても黒い炎までは晴れていなかった。爆心地から離れていたドラゴンの方が倒せているということはこの黒龍クリカラが何かしらしたということ。

 そして―――


の敵だな。恨みはないがっと言うつもりだったが今、できたな。同胞を殺すほどのチカラを持つ相手ならばこちらも全力で相手をするとしよう。』


 キマイラや蛇神ジャレフとは違う、「翻訳」を通さず、声もなく意思が伝わってきた。

 上位のドラゴンが持つという念話だ。この話は伝説にしか残っておらず、実際に体験した冒険者の話は聞かない。つまり、


 ―俺達は今、人類が届いたことのない神話の魔物に絶望の対峙をしているということだ。



――――――――――――――――――――


 クリカラのモデルは倶利伽羅不動明王という龍王(龍神)です。本編で触れることはなさそうなので補足しておきます。(_ _;)

 

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