第67話 再会(Ⅱ)

「お元気そうで何よりです。

 メイスさんの活躍は私達の街まで届いています。 

 今は王侯貴族様たちの、ご息女の講師をしておられるとか」


「いや、それは昨年までだ。今はもう少し自由な立場になってね、こうして過ごす時間も増えた」


 こちらの言葉を耳で聞きながら、目は本の方動かさないが、それを失礼とは思わない。俺はこの人が何をやっているのか知っているからだ。


「それでも、まだ現役なんですね。いまだそんな努力を重ねていらっしゃるとは頭が下がります」


 今読んでいる本はただの本ではなく、Aランクダンジョンのボスドロップ品の一つで、読んでいるだけでジョブスキルの経験値が少しずつ貯まっていくという変わったアイテムだ。


「魔法使い」のジョブスキルはすべてMPを消費するもので、マナポーションも日に何度も飲むことはできないので、こんな涙ぐましい努力の仕方となる。


 メイスさんほどのジョブレベルならほとんど効果はなく、普通はやらなくなるだろうがいまだ高みを目指している。


 ―全盛期。


 ステータスは通常40代から落ち始めるが、それはSTR筋力DEF防御力AGI敏捷から落ち始め、魔法使いとして大事なMPやINT知力は50歳を過ぎてからと聞いている。


 少ない人数で複数の役割を求められる冒険者としては引退していても、完全に後衛に徹せられる軍などではむしろ今が最盛期なのだろう。


「そんな格好の良い話ではないよ。いい歳になってもいまだ本懐を遂げていないというだけだ。

 私とてもう五十だ。ブライアンさんのような名誉欲は私にはなくてね、本当は早く引退したいものだよ」


 俺が本当にこの人を尊敬しているのは冒険者としてしての功績や研磨、ギルドの上役としての立ち振る舞い、貴族たちへのコネクションなど、あらゆることが自分のためではなく、一つの大義のために行っているということだ。


 だからこそ俺はこの人のためならばと身を粉にして働いていたのだが、メイスさんが去った後も怠惰な周りにいいように使われることになるとは……


「まだ諦めていないんですね、『あの森』の完全討伐を」


「当然だ、男が一度誓いを立てたことを放棄することなどできない。この身、朽ち果てようとそれだけは成し遂げてみせるさ」


 本を持つ手に僅かに力が入る。十数年振りの再会でお互いに老けたが、この人は変わってなどいなかった。


『あの森』―通称と呼ばれる北にある地底古代文明ダンジョンへの入口に立ちはだかる最難関フィールド。


 Sランク冒険者でも強力な神獣や悪魔の領域にいる魔物を起こさないよう通り抜け、ダンジョンに向かうその森を完全に消滅させようと、本気で行動し続けているのだこの人は。


 それはこの方の出自に関わる話なのだが―


「おっと、自由な立場とはいえ、流石に戻らなくてはいけない時間だ。君との旧交を暖めたいが、もう行かなくてはいけなくてね。

 時間があればここにいる。君が何の目的で王都に来たのかは知らないが、まだ滞在するなら訪ねてくれ。

 君は怠惰を貪る愚かな人達とは違うが、彼らを増長させる悪癖だけは直さねばイカンよ……、というのは以前の別れの言葉だったか。

 同じことを言いそうになるとは私も歳だな」


 と、立ち上がり、初めてこちらを向き直すメイスさん。


「いえ、耳に痛いお言葉です。ご忠告通り、行動できたのがつい最近でして。話の続きはまた訪ねたときにしましょう。こちらも失礼します」


 頭を下げ、応じる。


 本当はこの人にララのことも相談したい。だが、彼の今の立場もわかっていない中で迂闊なことはできない。


 何より彼はあくまで彼の本懐を優先するだろうし、俺はその邪魔はしたくはないのだ。

 状況がわかってきて、互いの利害を一致させれば協力関係になることはできるかもしれない。彼ほど優秀で、信頼の置ける人を俺は知らない。


 今日は幸先のいい再会があったなと、そのまま屋敷へと戻る道中、再会とは続くもので今度は思わぬ、そしてこの先の不穏を知らせるだった。


 広場の先で人だかりができており何事かと覗くと、




 ―行商人ルフォイ



 彼は磔の処刑を受け、帰らぬ人となっていた。






―――――――――――――――――――――――――――――――――


3章もいよいよ話が動いてまいりました。


 試験編を上回る章になるようこれからも頑張って投稿していきますのでまだの方は作品のフォローとよければ★★★のレビューをつけ次話をお待ち下さい(_ _;)




 

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