第66話 再会(Ⅰ)
「ごめんなさいね〜、主人は出先での晩餐に招待されていて留守なのよ。
明日の夜には戻るから、それまでゆっくりしていていいのよ。さあ、食べて、食べて」
腹がキツくなるほど食べさせられ、まだ勧められている。中年の胃をなんだと思ってるんだっ。
当主はあいにくの留守で、この御婦人の暴走を止める者はいない。話はロクに通じないがマイヤーの幼少期の話などを適当に相槌を打ってやり過ごす。
食事を片付けるとなんとか解放され、寝室を一部屋お借りして、苦しいお腹をさすりながらベッドにつく。
ひとまず王都での拠点は確保したので明日からのことを思案する。何をするにしてもまずは当主に話を聞くのが一番だろう。
現状、この婚約のどちらの家に近づくにせよ、頼りになりそうなのはここの当主以外にいない。
それとてかなり厳しいだろう。
しかし、何がどの程度厳しいのかを把握しなければ解決に向かわない。
その当主が明日の夜まで戻らないのなら、その間に何をやっておくべきか。
まずは金策の続きか。大貴族とどのようにやり合うにしても、軍資金はいくらあっても足りないだろう。
王都ならば即金できる相手もいるだろうし、オークションに流してもいい。そこまで考えて腹ごなしに「スキルブック作成」を行ってから就寝した。
翌朝、マイヤーの母親を軽くいなし、街へと繰り出す。
使用人にめぼしい街のお店の位置を聞き、まずは様子見をしながら慎重に事を運ぶ。
午前中のうちにルフォイの商売敵と聞いていた商人とコンタクトが取れ、即金で金貨300枚と今後必要になりそうな品物の現物で交渉が成立した。
「強制証文」による口止めも忘れずに。
質屋のときもそうだが「アイテム鑑定」を持っていて、利に聡い商人は話が早くて助かる。
過去にも別の品物で流れの冒険者の横流し品の密談などしょっちゅうなのだろうな。元ギルド職員としては少々やるせない。
ともあれ、俺も商人の「アイテムボックス」も手に入れたので現物を大量に保管できるのはいいな、今後ダンジョンにも挑んでいくのだし。
一件成立したので後は手形の換金や、こちらの冒険者ギルド本部に赴き、ランクも無事にDまで上がった。
昼下り、色々と周り疲れた所で、ちょうど街の中心の噴水のある広場へと出た。ちょうどいいので少し休んでいくか。
温泉もそうだが、この王都は水資源が豊富だ。そんなところだからこそ栄えたのだろうが。
流水の音に癒やされながら、周りの人を観察する。子どもたちがはしゃいでいたりと、このあたりは平穏なようだ。
王侯貴族達は王都の奥にある王城からなる別の区画に住んでおり、このあたりは平民の中でも財を成した者達が住み分けている。
そんな中で異質なほど貴族の出で立ちで優雅に腰を下ろし、本を読む英国紳士然とした一人の男を見つける。驚いた、この広い王都でこんな形で十数年振りの再会を果たすとは。
と、いうのは本音でもあり若干の語弊もある。俺はこの人は時間があればあの街でも広場で一人、本を読んで過ごすことを知っていた。
それでも見つけれたのはもの凄い偶然なのだが、この人とはこんな形で再会したいと心のどこかで思っていたからこそ、こうやって広場になんとなく足を運んでいたのだった。
そんな自分でも少し気持ち悪いなと思うロマンチストな部分はさておき、こちらから近づき挨拶する。
「ご無沙汰しております、覚えていらっしゃいますでしょうか? メイスさん」
本をそのまま横目でこちらを見やり、
「ああ、ここで会うとは思ってもいなくて驚いているが勿論だとも。私は君のことを数少ない友人だと思っているよ、タナカ君」
その表情からは驚きはわからなかったが穏やかに目尻が解けるのが見て取れた。
本も姿勢もそのままだが、何でも大袈裟にジェスチャーするブライアンよりよほど誠実さを感じる。
この男は俺がギルド職員になった頃の副ギルドマスターのメイスさん。
―友人なんてとんでもない、俺はこの人を合気道の師範代に次いで尊敬をしていた。
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