第96話 咆哮

雷の槍サンダースピアー


 メイスのこの意外な詠唱を皮切りに、遂にこの戦いの最後の攻防が始まった。

 何故、ほとんど効果がなかった雷魔法を、それも上空の利を捨て、杖から真っ直ぐに足元へ放ってくる? まだMPにも余裕はある筈だ。何か策があるにせよ、まずは大盾で攻撃を防ぎ、出方を窺う。


「ハアアァァー!!」 バチバチッ


 すると、今度はラディッツオが雄叫びを上げる。

 ジョブスキルの固有モーションに入った影響か、その体からは雷気を放ち、荒く伸ばした金髪と全身の体毛が逆立ち始めた。


 ―暴虎、その異名の真の姿があらわになる。


 っておいっ、まさか…… 。ここで先程のメイスの攻撃の意味を理解してしまう。


 俺は文系だったので詳しいことはわからないが、これってもしかしてリニアなどで使う、電気を走らせ磁界を作り、その上を帯電した物体が走ると磁力の引力と斥力で加速するっていう……… 。


 駄目だろ、おい。そういうのは転生者側のこっちが前世知識を使ってやるものだろうが、なに現地人が強い上にこんな反則物理使ってくるんだよっ。

 だいたいこんなのは割と緻密な計算がないと思うように真っ直ぐ加速できないで暴発するものだろうが、先程の口振りからみると実戦以外ではすでに試しているようだ。


 ―智龍メイス。

 ラディッツオに合わせ、雷魔法を自在に操り磁場すらコントロールをしているのはこの男だ。

 一人の男の執念は、ステータスやスキルといったこの世界の常識を超え、新たなる人間兵器でもって本懐を為そうとしていた。


 こちらの想定を上回る出力。元の作戦ではMPを使わせたメイスが降りてきたタイミングで、ラディッツオを挑発してジョブスキルを使わせる予定だったが、これは上手くいってるといっていいのか?


 さらにさらに、ラディッツオの雷気の魔力は義手のミスリルを通じてオリハルコンの槍にまで帯電し始める。


 マジかよっ、オリハルコンは選ばれた勇者などにしか魔力を流せず、その真価を発揮した時だけアダマンタイトをさらに超える武器となるという伝説を聞く。

 このオッサンはミスリルの義手を使った力業でそれを擬似的に再現してるのか。


 これは流石に無理じゃないのか、今から作戦変更できないか……… どうしたら逃げられる?

 そんな錯乱した思考の中、


『必ず助けにいく、約束だ』


『大事なのは俺達への信頼だ、俺を信用してくれないか』


 ある言葉が脳裏をよぎる。誰の言葉でもない、の言葉だ。


 大地に大盾を突き立て、不退転の覚悟を表わす。

 歯を食いしばり、弱音を仕舞い込む。

 もうレッドウイングリザードのときのような三枚目はゴメンだ。キザに助け出したんだ、ここで決めなくてどうするっっ!


 再度プロテクトをかけ直したら杖をしまい、目の前の両雄を睨みつけ、その間に他のジョブスキルの準備を間に合わせる。


「へっ、そんな顔をされたら手加減出来ねぇだろうがっっ!いくぜっ、雷神の槍ヴィジャヤ!」


 まだメイスの雷魔法の導線がある中、ラディッツオ自身が弾丸となって突撃してくる。

 その速度、まさに神速。人間大の物体が知覚すら許さず、音を置き去りにして突きを放つ。

 Sランク冒険者にしか到達できないとされる領域、ジョブレベル8で取得する最強単体攻撃だ。


 防御魔法プロテクトが一瞬も持たず突き破られ、そのまま大盾にも風穴が開く。


「うオオォーッ!! パリィっ!!」


 大盾の裏で杖から剣に持ち替え、剣士のジョブレベル2で取得する「パリィ」を使用する。


 タイミングさえ合えば物理攻撃なら大抵受け流せる防御スキルだが、まさか保険のこいつまで使わされるとは。

 盾を貫かれるかわからなかったし、貫いても軌道はズレるだろうから使うのは難しいと考えていたが、威力がありすぎて真っ直ぐに槍がきたので何とか一瞬だけは受けることができた。


「小賢しいっっ!! ウラァァー!!」


 受けた俺に続きラディッツオも咆える。

 三重の防御でも、勢いはまだ消しきれないっ。


 纏っていた雷気が大盾に当たり、ここまでの戦いで限界だったのもあるのだろう、大穴から亀裂が入り、遂に大盾が崩壊する。


 ―次の瞬間、大盾があったその先から



「ハアアァァッッ!! 回転切り!!」


の咆哮が鳴る。それは俺やラディッツオ、ましてメイスのものでもなく、


 その声は、「変装」で替えていても尚、澄み渡るほどに清涼。それでいて重厚さがあるのは、自身の主への想いが乗っているからだろう。


 そう、騎士の烈迫の咆哮だった。


 前衛職の攻撃ジョブスキル最大の弱点である、固有モーション。それは例え、Sランク冒険者でも致命的な隙となる。


 パリィでも受けきれず、槍が俺を貫く刹那、ラディッツオのガラ空きの胴体にエレイシアの攻撃スキルが炸裂する。

 いかにステータス差があろうと、完全無防備に食らっていい攻撃じゃないっ。


「なっ、どこからッッ」


 吹っ飛ばされ、大木に当たって幹が折れてもまだ勢いが止まらないラディッツオ。

 そのままエレイシアが追撃に走る。


 ジョブレベルが高い攻撃ほど、ラディッツオのようにタメも固有モーションも大きいのだが、エレイシアは敢えてジョブレベル1のスキルにしたので割りかし素早く追撃ができる。


 また、それよりも早く、俺も走り出していた。

 メイスからはラディッツオと大盾が死角で、突如現れたエレイシアが見えなかった筈。

 何が起こったかわからない内に飛行魔法を使わせず、このまま倒す!


 一瞬で距離を詰めた俺に魔法が間に合わないと腰にかけていたショートソードを抜くメイス。

 いい動きだ、スキルブックか鍛錬かはわからないが、剣術Lv1は持っていそうだ。


 だが、当然今の俺には通用しない。

 こちらの剣でメイスの剣を弾くと、そのまま合気道で投げ、組伏した。

 魔法使いなのもそうだが、既に加齢で近接ステータスが落ちているのが窺える。


「クッ、まさかこんな所で私はっ……」


 普段からは想像できないほどの忸怩たる声を上げるメイス。


 

 顔を上げると、エレイシアもラディッツオの首元に剣を突き立てていた。




 ―こうして俺達の戦いは勝利で幕を閉じた。



 だが、勿論これですべて解決というわけではない。さあ、後始末といこうか。




―――――――――――――――――――――――――――――――――

 いかがだったでしょうか。

相手2人が使ってきた合体技はとんでも科学なのでファンタジー小説だということで多目に見てください( ;∀;)



 「まあそれでも面白かったぜっ、」


と言う方がいらっしゃればまだでしたら作品への♥、フォロー、★★★、 さらにはレビューをつけてくださる男気ダンディズムのある方お待ちしています(_ _;)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る