第85話 初顔合わせ
ユキを完全に組織から切り離すことに成功し、ひとまず宿に連れて帰るとする。徹夜になってしまったので、すぐにでも眠りたい。
しかし、朝帰りなので別の部屋を取ることもできないので、仕方なしに商人のアイテムボックスにユキを入れて部屋に連れ込むという、ちょっとしたズルをした。
こんな若い娘を部屋に連れ込んで間違いがあったら大変だ。前世の頃、同期が18歳未満の少女に手を出して消えていったのを思い出す。
まあ、こっちではそんな条例はないが、「変装」を解くと可愛そうなほど痩せっぽちで、とてもじゃないが、そんな気分にはならないのよ。
笑顔は可愛らしいので磨けば光る原石だとは思うけど。
まあ、それでも俺に抜かりはない。「強制証文」で作った雇用契約書に男女関係禁止の一文を盛り込んでおいたからな。
何せ、向こうは年端のいかない少女といっても今まで「変装」を用いて男を騙してきたプロだ。
歳はいっていても経験の浅い俺が、コロッと騙されて手綱を握られては敵わない。
「ちぇっ、最初に会ったときは私の『変装』で鼻の下伸ばしてたくせに。
からかってあげようと思ったのに、ホントにあの契約書もスキルなのね。聞いたことないけど」
なんて言ってくるくらいだからな。全くもって油断はできない。しかし、こんなんじゃエレイシアと会わせると、どうなることやら。
今後のことを考えればユキにも事情を説明し、協力してもらわなければいけないが、そうなるとどうしても協力者としてエレイシアとも顔合わせが必要になる。
まあ、なるようになるか。流石にもう眠いやと思考を切って横にると、すぐに意識が途切れた。
翌日からはしばし、今回の捕物による状況の変化を中心に大人しく動向を見つめていた。
どうやら、この組織に汚れ仕事をやらせていた王都の商会達はルフォイの二の舞いになりたくないと、相当な額の賄賂をヴァイアージ家に渡す結果となったようだ。
それでこの件は組織が単独でヴァイアージ家を狙っていた賊として片付けられることとなったらしい。
これはちょっと想定外というか、俺の詰めが甘かったか。まあ、王都の経済の中心である商会達と、これ以上の緊張状態を続けるのは公爵家にとっても得策ではない。
これが大人の落とし所ってやつか。
そんな中、今日は宿にエレイシアを招き、ユキとの初顔合わせをすることとした。
男の宿ということで露骨に警戒するエレイシア。
ちょっと傷つくが、からかったのはこちらだから仕方ない。
俺一人ではなく、協力者の少女の紹介だということで納得してもらおうとしたが、「何故少女?」と、さらに警戒されてしまった。
ユキにもちょっと堅物の女騎士さんが今後の仲間だから上手くやるようにと、念を押して宿に待機させている。
エレイシアを迎えて、宿の部屋に連れてきた。部屋に入ると、
「はじめまして、見目麗しい騎士様。あなたのような美しい女性ははじめてです。
以後、お見知りおきを」
と、若い耽美なイケメンに「変装」したユキがエレイシアを出迎える。いや、君さ、何してんの?
組織から解放され、ユキの性格も少しずつだが、わかってきた。
この娘、相当なイタズラ好きだな。
まあ、はじめて会ったときの死んだ魚の目をしなくなっただけ、良しとするか。
「あっ、えっ、えぇその…… 、はじめまして。
あれ? 少女だと聞いていたけれど、ってタナカ!
また私を騙したな!!」
ユキがエレイシアの手をとり、挨拶をしていると、赤面したエレイシアが俺に矛先を向けてくる。
なんとなくわかってたが、こっちは逆に男に免疫なさすぎ。
ララは愛嬌のある、誰とでも打ち解けるタイプだったが、エレイシアはそうでもないのだろう。
「騙してないですって。ほら、ユキもそれくらいにして」
「は〜い」
イケメン姿のまま、間延びした可愛らしい声を出すユキにびっくりするエレイシア。
二人で一度部屋を出て、もう一度入室するとそこには可愛らしい服を着たユキがお辞儀をして待っていた。
はあ、協力者は欲しかったが、こんな若い娘二人と上手くやっていけるだろうか。
受付嬢達に舐められていた嫌なトラウマが蘇るが、それに比べたら、なんとかなるか。
―気持ちを切り替え、ここからは本格的な作戦会議だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます