第128話 契約の関係

 交渉の始まりの際、ここの集落の人間の長であると名乗り出た先ほどの男、ロクスが俺の言葉に反応する。


「安全の確保か、要するにどうするというんだね?我らの神を倒した君等が私達の新しい神にでもなるつもりか?」


 フム、この言い回しからはそこまで強烈な邪神への信仰は見て取れないな。

 やはりといっては何だが、あくまで恐怖とメリットがある中での信仰なのか。

 まあ、もっと若く幼少期から信仰が当たり前のものならともかく、目の前のこの男は追放当初からのメンバーだろうからな。


 内心がどんなもんかなんて、わかったもんじゃないがまあ、それは普通のことだ。

 人と人とはそも、そのような前提で言葉を交わし、妥協点を作っていくものだと思っている。


 社畜の世渡り語りは程々にして本題に入ろう。

 

「私達は『神』でも『魔物』でもありませんよ、取引といきましょう。私達の拠点はかつて城壁を破壊され蹂躪された街『リードライト』です。

 そこにいたキマイラも倒しましたし、住民たちとも共存しています。それでも元は大きな街ですからね、居住区は空いていますし、そこに越してきていただきたいのです。

 要望があればあなた方の自治区として独立し、深い干渉もないようにしましょう。」


 まずは相手が乗り気になるような提案から入りつつ、様子を見る。やや、『リードライト』というワードに反応があったようにも見えた。

 警戒はやはり必要か。


「それで、何が望みだ?取引というからには我々への勝手な救済意識で邪神様に挑んだわけでもあるまい?いっておくが、我々はそちらに返せるようなものなど持ってはいないぞ。」


 警戒心は向こうも同じ。甘い言葉よりもこちらからの要求を先に掲示しろと。

 これは少し困ったな。まさか単刀直入に結界破壊のことを調べているとはいえない。

 彼らが街の結界破壊の犯人ならこの質問をした時点で関係は破綻してしまう。

 やはり手順としては「強制証文」を利用して取引を済ました後に、色々と吐かせたいのだ。


「我々の目的は『パンドラの森』及び、その先の『地底古代文明ダンジョン』の攻略です。

 あの森からやってきた魔物と共存していたあなた方ならまだ私達にも知らない情報があるかと思いまして、、。

 また長期的な攻略にあたり拠点を用意していますが人手不足なのもあり、そちらのお手伝いをしていただければと思っています。」


 このあたりのセリフはすべてが本音とは言い難いが、ある程度それっぽく見せなければ食いつかないからな。


「なるほどな、あの邪神様を倒すほどのパーティーなんだ。森やダンジョンが目的というのは頷ける。

 ところで、先ほど広場で追放された身だといっていたがアレは本当か?

 王国の人間への憎しみは絶えないが、それでも同じく放逐された者同士ならば手を取り合うこともやぶさかではないぞ。」


 それっぽくいっているが残されたここの住民たちとしても魔物の脅威から守る存在は必要なのだ。

 勿論、そんな滲み出た相手の本音は知らないフリをする。その言い訳は守ってあげるのが大人の付き合いだ。


「おっしゃる通りです。同じく過酷な環境に身を置く者同士、協力できる範囲でだけでいいので手を取り合いましょう。

 私達もあなた方の生活を深く干渉するつもりはないことは先に明言しておきます。」


 厳しすぎる環境にいたにせよ、彼らはこの異世界の中でも、既に通常の人間の倫理の外にいる気がしている。干渉すればそれだけこの不確かなカンケイがすぐにでも崩れるだけだろう。


「そのためにも『言葉』や『信頼』などではなく我々の関係は『文字』による『ルール』にしておきましょう。」


 う〜ん、素晴らしきかな。人と人とはルールによって共存できるのだ。

 このような無法地帯でも俺のスキルがあればたちまち執行力のある社会になって安全だ。


 ―これで契約が成ればいよいよ核心に迫るとしよう。



――――――――――――――――――――――


更新遅めですがご容赦を(_ _;)。


カクヨム様にて先日行われた「ドラゴンノベルスコンテスト」にてエントリー2000作品以上の中から中間選考36作品に残ることができました!


ひとえに皆様のお陰です。本当にありがとうございます。

これからも頑張っていきますのでどうかよろしくお願いします(_ _;)

 

 

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