第129話 安堵
そのまま、簡易なリードライト移住に関する契約条件を話し合い、明け方近くになってようやっと解放され、パーティーメンバーとの合流ができた。
まあ、あくまで簡易なので街へ戻ればもっと詳細を詰めた話し合いと書面による締結が必要だ。
またしばらく「書記」としてのブラック労働が待っている、、。
どうしていつもこうなるのだろうか。我ながら学習能力がないなとため息も出るが、こんなことでモタモタしていられないからな。気合を入れ直して頑張ろう。
「無事で何よりだ。それで首尾はどうだった?」
合流して皆が安堵の顔を見せてくれる中、メイスが俺へと問いかける。意味は当然彼らの移住の件ではない。彼らが結界破壊の首謀者か否かの件だ。
俺だってもちろんその件について早めに決着はつけたい。しかし一部の暴走だった場合、それでこの場が決裂したら無関係な人間の犠牲が出てしまう。
せっかく俺達が邪神を倒しても矛を収めてくれたんだ。
できうる限り無駄な血を流さないようにこちらも誠意を見せなければならないと俺は考えたい。
「業腹かもしれませんが、その件は持ち帰りとさせていただきます。一旦彼らを街へ移住させてから、はっきりとさせましょう。納得できないのも重々承知ですが、それでもこの件は私に預からせてください。
メイスは彼らとの一切の関わりを持たず、元の仕事に専念していてください。」
「ぬう、しかし、、。」
「『錬金術士』のジョブを断ってまで自分が言い出したことです、必ず結果を出してください。
それと、必要な処断を緩める気はありません。その点はお約束しますので無理にでも納得してください。」
メンバーの元へ戻った俺がここでグダグダと揉めれば遠巻きに見ている信徒達に不信感を与えてしまうだろう。ここはメイスといえどもハッキリと断言する。
「ふぅ、面と向かって私に物事の筋を説く気概のある者はやはり君くらいだな。大人しく友人の言うことを聞こう。」
ギルド職員の頃から妙にメイスは俺のことを買っている。恥ずかしいので詳しくは聞かないのでよくわからんが、折れてくれたのなら話を進めよう。
「よし、それでは皆さんお疲れでしょうが明日にでもここを発つますので準備に入ってください!」
声を張り上げ、話し合いがまとまったことをこの場のみんなにアピールする。
「我々が居座ってはかえって気になって荷作りの邪魔でしょう。魔物の見張りに外で待機しておきますのでお気になさらずに。」
配慮アピールしているが実際は逆。
気丈に見せているだけでその実、深夜に蛇神と戦い、そのままその信徒達に囲まれた状態で数時間の交渉で心身ともにヘトヘトだった。
単純に何かと理由をつけて彼らから一旦離れたかったのだ。
集落の外側の櫓のところまで戻ると自分達のテントを用意するとすぐに、
「悪いけど俺から休ませて、、。」
「はい、お疲れ様でしたタナカさん。ゆっくり休んでくださいね。」
耳元に優しいララの声が残る。
集落から離れ、仲間の前でようやっと弱音を吐くことができた。
昔と同じようでいて唯一違うのが、仲間の存在なののかも知れない。
散々いった通り、契約での上辺だけの関係というのもそれはそれで悪いものなんかじゃない。
でもそれだけではいつか、生きてるいる理由がわからなくなる時がくる。
俺はもうそうなりたくはない。
―そんなことを考える余裕もなく、そのまま気づけば泥のように眠りについていた。
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