第127話 交渉のテーブル

 強硬姿勢を見せた男がユキの麻酔針により倒れたことで動揺を見せる信徒達。

 俺の言葉にどう対応するか周りを見渡す者が大半だ。その中でも「夜目」のスキルも駆使して何とか奥にいる穏健派の重鎮らしき人間を見つけ、そちらに声を掛ける。

 こちらも強硬姿勢の男を眠らせるという手段に出たんだ、交渉の前にあまり手札は見せたくないが安堵を掲示してやるのが先決だろう。


「実の話、我々も街を追われた人間なんです。あなた達が恨みを覚える王都からの増援などは一切ありません。むしろ、今後助け合える関係になれればと思っています。

 そのためにも邪神は打倒させていただきました。あなた方とて感謝はあれど、赤ん坊を差し出すなどのつらい犠牲など、ないに越したことはないでしょう?すぐには信じられないでしょうが、皆のためにも前を向きましょう。」


 こんな言葉で彼らが崇める神を打倒した事実が有耶無耶にはなりはしない。

 それでも話し合いのテーブルにつくためにも強引に話の手綱を握る。

 全く、話術に長けたジョブでもスキルでもあれば楽なんだが、あいにくとそんなものはこの二十年間、聞いたことがないんだよな、、。

 

 前世時代から苦手ではあるものの、それでも場数だけはこなしてきたプレゼンに少しは反応があったようで、


「アンタがそのパーティーのリーダーなのか?

殺気立った他のメンバーやこちらの人間を宥めたりしているアンタ1人なら話し合いに応じよう。

 他の仲間はここで待機させておいてくれ。」


 見た目50代ほどの重鎮と思しき男が乗ってきた。

 若く見えるが恐らくは追放された初期からの異国人だろう。

 言葉を額面通りに受け取ることはできないが含みがあるのはお互い様だ。

 実力差こそあれど分断されて数で奇襲をされれば当然危険もあるが答えは当然、


「わかりました、お受けしましょう。」


 パーティーメンバーに目配せし、納得させる。残る仲間にも声を掛けたいが敢えてしなかった。

 先ほどのユキの行動など各々このパーティー内での役割は言葉にせずとも自覚があるもの達ばかりだ。


 また、メイスにも余計なことをいうよりもお互いの信頼を行動で示す方が冷静になってもらえると考えた。

 まあ、合気道の師範代の見様見真似だが。


「オマエの心配はしない。交渉とやらはタナカに任せるし、命も自分で保障しな。その分、何があってもこっちは任せておきな。」


 歩きだす俺に向かい、ラディッツオがらしい言い回しで俺が掛けてほしい言葉を残してくれた。心配そうにするララの肩に手をポンっと置くとそのまま輪を抜け、案内されるままに従う。


 まあ、正直交渉の成否さえ除けば、例え奇襲されても先ほどの蛇神戦よりはるかに楽だとは思う。

 が、まあコチラも戦いの後で気を抜いてやられましたではカッコつかないので警戒心は持って望むとしよう。


 着いていった先は、他の建物よりか幾分かはマシな小屋で、先ほどの男の他に10名ほどの護衛が立っている。

 急襲した立場で向こうの護衛に文句をいっても仕方ない。どちらかというと数の多い相手のほうがむしろ臆しているしな。


 警戒心からか、こちらの出方を窺っているようなので大事な交渉の開口一番はコチラが貰うとしよう。


「まずはお互いの利害、立場を明確にしていきましょう。始めに邪神なき今、あなた方の安全の確保からですかね。」


 ―恨みから俺達に手を出しても後が続かないぞ。


 そう、暗に仄めかした所から交渉はスタートした。


 

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