第126話 残された者達

 邪神を名乗る大蛇の魔物は遂に倒された。

 しかし、結界の中のパーティーメンバーの一時の安堵とは裏腹に、結界の外の邪神教徒達は状況を飲み込めず、混沌としていた。

 あれだけの戦いだったので俺も安堵したいところだが実の所、ここから先も負けて劣らず重要な局面だ。


 と、いうのもまず俺達の第一の目的はここの信徒達が街の結界への破壊工作を行っていたのかどうかの事実確認だ。

 しかし彼らが崇める邪神を俺達が打倒し、またその疲弊した状態で彼らに囲まれているのも事実。

 ララの結界魔法が維持されるこの一分でのプレゼンが、今後の首尾に大きく影響することは状況だ。

 

 こういうのは経験上、メイスか俺かとなるところだがメイスは彼らに対し、どこまで冷静に対処できるかわからない以上、俺が前に出るしかないな。

 ホントは裏方での資料作りが俺の領分なんだが仕方ない。プレッシャーで胃がキリキリするが不安を押し隠して声を張り上げる。


「皆さん、聞いてくださいっ!見ての通りあなた達が神と崇める魔物は我々が打倒しました。

 しかし、我々にはあなた方達とまで敵対する意志はありません。

 この場で剣を取り、敵対すればどれほどの犠牲が出るか、、。邪神の強さを知っているあなた達なら我々の戦力もわかるでしょう。

 お願いです、代表者は名乗り出てください。まずは話し合いましょう!」


 この場では結界への破壊工作の嫌疑の話はまだ持ち出さない。そんなことをすれば残った教徒達も次は自分達だと自棄になって暴徒と化す可能性もあるだろう。

 まずはララの結界魔法を解除した後の安全の確保だ。そうしてから話し合いの場を設けなければ目的は達成できない。


 しかし、そうすべて事が上手くいく保障もない状況なのも確かだ。慎重に相手の出方を窺う。

 蛇神の変わり果てた姿を見つめ、茫然自失となっていた教徒達も俺の言葉を受け、ざわめき始めた。


 俺達にとってはどう見ても打倒すべき魔物であった蛇神も、彼らにとっては恐怖を超えて畏怖へと昇華されていた相手だ。

 多くの者は狼狽え、あたりを見渡し、出方を気にしているだけだが一人の比較的若い信徒が立ち上がり声を上げた。


「おい、お前たち!こんなことを許していいのかっ!!今まで俺達がどれだけ蛇神様に助けていただいたか忘れたのか?

 こいつらだって今の戦いでへばっているからこんな弱気なこと言って逃げる気なんだ。

 皆で武器を取り、コイツラを―、うっ」


 男の扇動の途中だが勝手にやらせているわけにもいかないが話の途中で結界が遂に切れてしまった。

 俺達も緊張が増す中、今にもラディッツオ、そしてメイスまでもが俺を待たずに攻撃態勢に入ろうとする。

 衝突を避けようと俺も男の話を遮ぎって声を上げるか迷う。

 が、そうなるとただの口論となって、そのまま勢いでの衝突がよぎり、躊躇している中で、意外にも動いたのはユキだった。


 大柄のラディッツオの背に隠れ、扇動する男の首元に先ほど潜入の際に使った吹き矢で麻酔針を打ち込んだようだ。

 最善策がどうかはわからないがともあれ、衝突を避けようと動いてくれた仲間に感謝して俺もすぐさま動く。


 急いで声を出さないと、相手も強硬手段に出てくる一触即発の行動でもあるのだ。

 救いなのはこちらの敵対行動が相手からは見えずに男が倒れたため、信徒達も状況を飲み込もうと1テンポ思考が遅れたことだろう。

 これがラディッツオやメイスの攻撃ならもう戦闘回避は不可能だったと思われる。能力もそうだが冷静な判断力などユキには戦闘面以外で本当に助けられるな、、。


「落ち着いてくださいっっ!!彼には話し合いを妨げられないように眠ってもらっただけです、確認してください。見張りの方々も無事です。

 今の出来事はむしろこちらに敵対の意思がないことの証明です。話し合いましょうっ!!」


 俺も柄にもなく腹から声を張り上げる。

 まだまだ気が抜けないがラディッツオもメイスもひとまずは俺に状況を預けてくれるようだ。


 ―文官としての戦いは続く。



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落とし所が難しいシリアスパートで苦悩しており、投稿が遅くなっています(_ _;)


そんな中、続きを待たれている方々には申しわけありませんが息抜きがてら構想だけあった2作品目を投稿しました。


今作とは雰囲気がまた違いますがもし良かったらお試しで読んで見てください。

タイトル


『パーティーから裏切られてダンジョンで捨てられたヒロインが逆異世界転移してきたので復讐のお手伝いをしながら一緒に幸せになろうと思います。』


です。作者名からアクセスすると出るかと思います。

 

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