第4話 社畜、アットホームに口説かれる

  「君、ここで働かないか?」

 

 部屋に入った俺を対面の席に座らせ、開口一番におそらくギルドマスターであろう男が告げる。

 俺が驚いていると、座っている男の後ろに立っている男が咳払いしながら、「順を追って説明を」と付け足す。

 俺の後ろには先程の受付嬢が立って控えていた。


「彼女、セリルからの報告では君は冒険者になりたいそうだが、残念ながら君には冒険者に向いたジョブやスキルは持っていないね。

 魔物は強力で、フィールドでもダンジョンでもとてもじゃないが無理だろう。こればかりは生まれ持っての才能と君がその歳までにスキルを発現できなかったのだから仕方ない」


 やはりジョブは生まれ持ってと十年ほどの修行で開花する場合があるらしい。


「しかし、君には書記という立派なジョブがレベル5までに到達しているじゃないか。いや5というのは本当に凄い、冒険者ならベテランBクラスだよ!」


 ここでやや、俺には違和感があった。

 『5というのは本当に凄い』というのは確かに間違いなさそうたが、では何が本当は凄くない?

 大きく手を広げながらこちらを称賛する姿に嫌な感触があった。


「この街は見ての通り、異種族の人種が結構流れてきていて対応に追われていたんだ。

 君のジョブレベルなら『翻訳』ができるね?」

  

 「はい」 短く答えた。


「そう身構えないでくれ、悪いようにはしないよ。

 私も副ギルドマスターのメイスも冒険者上がりでね、書類仕事が苦手なんだ。

 けれど、冒険者ギルドってそういった書類仕事が山積みでね」


 そう、苦笑いしながら続ける。


「私もメイスも対外的な仕事で空けることも多いし、内務を任せられる人を探していたんだ」


 そういうと顔を近づけ、小声で


「受付の女性達は顔で採用しないと冒険者に受けが悪くてね。その分、書類仕事は頼りないのでいずれはみんな君の部下という形にしようと思ってる。

 皆、美人揃いだろう?」



 ゴクリと唾を飲む。


 体が若返ってる影響が出ていそうだ。

 しかし冷静になれ俺。それって俺が苦労するって意味じゃ、そもそも俺はもう縛られたくなくて冒険者に―



「まあ結論として今は君に冒険者登録手続はできない。冒険者になるためにはそのために何らかのスキルがいるが、先天的か長い年月の修行以外にも実は方法があってね。

 そのためにも君はここで働くのが近道だ」




 ―この言葉が決定打だった。

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