第63話 旅路の途中

 二日目の朝を迎える。

 交代の見張りもあったが、体調は悪くない。


 最低限の魔物とこいつらへの警戒はあったが、ルフォイが俺をからかうのが目的で、この先無害と考えていれば、むしろ今までより危害を加えてくる可能性は低いだろう。


 王都までの日程は4泊5日、それも今日は中途の街で寝泊まりできるので割と気が楽だ。

 王都や今日着く街も、同様にアダマンタイトの城壁で覆われていて、その周辺数キロも街を中心にミスリルで描かれた魔法陣の結界があり、強い魔物は近寄れない。


 強いフィールドの魔物は北にある「地底古代文明ダンジョン」へ向かう道中の森に、AやSランクの魔物達が棲み着いているそうだ。

 Aランク以上の魔物は人語を解する知能を持つものもいて、個性様々だとか。

 中には街から追放され、流浪となった民の「守り神」をやっているような人と友好的な魔物もいるという話もある。


 いずれはそういった魔物との邂逅もあるかもしれないが、今は着実に強くなり、それまでは無用なリスクは避けて通ろう。

 二日目も大したトラブルもなく、近くの森のコボルトが数匹で襲ってきただけだった。


 当然ジョブスキルを見せる必要もなく、上げた剣術スキルであっさりと片付ける。

 それを見ていたルフォイが


「おぉ、思ったよりやりますねタナカさん。

 今の動きは剣術スキルですよね?」


 と声をかけてくる。


「えぇ、ずっと冒険者になりたくて、隠れて剣を振っていたんですよ」


 と、誤魔化す。派手な動きはしていないし、疑っている様子はなく、ただの感想のようだ。


 俺が倒したのは一匹で、他は護衛のパーティーに任せたが、当然そちらも問題はない。

 街まで着くとそこでも商いはあったが、護衛依頼なので仕方なくついていこうとすると、密談もあるらしく、俺は明日の朝までお役御免となった。


 ラッキーっと、羽を伸ばしたいがせっかくの新しい街で寄りたい所もあった。

 自身が20年間ギルド職員として住み着いた街では横流し疑惑を恐れ、慎重にスキルブックを売り捌いたが、ここでは流れ者だ。

 

 そしてこの街の商人にアイテムボックスのスキルブックを売れば、今まではルフォイに勝てないと手を出していなかった王都と俺のいた街への行商に手を出すだろう。


 王都に着く前に予め作っておいたスキルブックをここで少し売り払おうと動き出す。

 問題は商人のアイテムボックスなら売値が高すぎて即売できるのか?

 と、いう点だが、ここの街の質屋は王都に本店がある大手の系列らしく、その本店で換金できる手形を発行して掘り出し物を逃さないシステムになっている。

 その質屋でめぼしいもの数点と金貨200枚相当の手形で交渉が成立した。


 質屋の「商人」は『アイテム鑑定』をしたときこそ驚愕していたが、交渉が終わると価値のわからないボンクラな客は美味しいぜっと顔に書いてあったが、まあ気にしない。

 忘れずに「強制証文」による口止めもしてるしね。流石に間をおかずに数冊もこの街で流すのも混乱になり足がつく可能性も考慮して、ここまでにするか。


 その後は早めに宿に戻って食事を取り、今夜は落ち着いて「スキルブック作成」を行った。

 翌朝にはすぐに出発して王都を目指す。


 ここまでくると王都の大結界の範囲になるので魔物の心配はほぼなくなり、盗賊の待ち伏せだけを警戒しながら先へと進んだ。

 そろそろ何か起こるかななんて胸のざわめきがあるが、どうやら俺は昔からその手の勘が良くなく、無事に三日目の野営に入る。

 「書記」に野生の勘なんてあるわけないか。


 トラブルはないものの、夜に暇を持て余したルフォイがちょっかいをかけてきてウザいのだが、依頼人だし無視しても終わらないので、どうせだからとこちらから話題を振ってみた。


「これから向かう王都のことを少し、伺ってもいいですか?

 王都など、今まで一度行ったことがあるだけでして。我々の街は穏やかで見かけませんでしたが、無礼討ちなどが怖いので貴族様の事情などあれば」


 マイヤーとブライアンからの視点での説明は受けたが、王都に出入りする商人視点では別のものが見えているかもしれない。

 自慢風に語られるのが非常にウザいが、まあ仕方ない。この手の接待は前世でも経験がある。


 聞き役に徹するとしようか。





 




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