第53話 その後の確認
冒険者ギルドが閉めとなった所で、二階のギルド長室で契約の最後の確認作業へと移っていった。
「ふう、どんな手品かはわからないが、不正の余地はないな。全く、君には驚かされたよ。
ともあれ、試験は合格だ。こちらは全面的に君の条件を飲もう」
ブライアンがいつもの大仰の雰囲気から、潔い言葉が出てきた。だが、残念ながらこちらにはほとんど言葉が入ってこない。開いた口が塞がらないのだ。
口をあんぐりとさせながら、目の前の男を眺めてしまう。大事な確認作業なのに、どうしてそんな態度なのか。それには理由がある。
ギルドの閉め作業の終盤、上役二人の手が空くまで、一階の応接間で待たせてもらっていた。
そのときにアイルさんがやってきてお茶と一言二言挨拶をしたあと、ユーリーがギルドにカチコミに来たときの顛末を聞いたのだ。
それはもうすごい騒ぎだっらしい。
コツコツと、小さな体でギルドの中に入ると持っていた拡声の魔導具を使い館内に声がこだました。
「おい、ハナタレのブライアンはいるかね?
昔、私に向かって言ったね。
『僕は必ずAランク冒険者になってみせます。そのときにはあなたを迎えにいく、必ずです!』
ってね。本当に迷惑なガキだったよ。
確か宮廷にいく直前だから私が24でアンタが16くらいだっけ?
全く相手にもしていなかったが、15年ほど経って街に戻ったら、アンタは私を避けてコソコソとしてたね?
てっきりAランク冒険者なんて無理で諦めたのかと思ったら、何と立派にAランク冒険者になってここのトップらしいじゃないか!
出世したね〜、私の下着を盗もうとしたガキが!
ほれ、いつまでもアンタがこないから、こっちから来てやったよ!さあさあ、口説いてみせな!!」
と、ブチかましたらしい。
コッワッッッッッッ!!
前世の口裂け女や、メリーさんが裸足で逃げ出すほどの恐怖体験だ。当然、ただの啖呵でユーリーは以前からブライアンの経歴は知っている。
だがこれにはトラブル続きで、フラストレーションを貯めていた冒険者達が乗っかった。
「そうだ、そうだ! 出てこいブライアン!!」
「俺たちがついてる! 絶対成功させろよ、色男!」
と激と口笛が鳴り響き、お祭り騒ぎになったようだ。
それにも驚いたが、何より驚愕なのが今、平然と俺の前にいるこの男だ。
よくもまあ、俺にマイヤーのことを言われたよ、くらいで語ったよな。
今も何食わぬ顔で両手を大げさに上げ、俺の試験合格を讃えている。
本当に天然なのか狙ってやってるかは知らないし、全くもってこうはなりたくはないが、今回ばかりは流石に一種の尊敬の念を抱いてしまった。
その後の話し合いは契約のときと一転して何の悶着もなく、スムーズに決まっていった。
主に決まったのは
①Dランクダンジョンをクリアしたが、他の依頼実績がないため、ひとまずEランク冒険者となった。
②マイヤーのポケットマネーの退職金は本来の試験期間の15日後に支払い。
一部ブライアンも持つそうだが、それは俺が口を出すことではないだろう。
③引き継ぎとして本来の試験期間までは在籍するが、出勤するのは主にピーク時間帯のフォローと指導、溜まっていた書類チェックと取引先への引き継ぎの挨拶回り。
他は俺がいなくなっても回るように、あまり手を出さなくてよい。
拘束時間もぐっと少なく、その間3日ほどの完全休日も用意された。
④マイヤーの賭けとは別に、ギルドから退職金、金貨十枚が用意されるとのこと。これは引き継ぎを自ら提案したことへの感謝も含まれるらしい。
③についても本来やらなくてもいい引き継ぎを提案した分、二人は完全にこちらの条件を飲んでくれた。
また、明日に限っては俺も疲れて休みたいが、ギルドも色々と仕事のツケを残していて危ないとのことなので、お互い譲歩して昼過ぎからの出勤となった。
この話し合いの中、マイヤーはずっと俯き、聞かれたこと以外は口を開かなかった。
まあ、いい。明日以降の引き継ぎがあるんだ。
バシバシしごいて、その中で何か打ち解けるものがあるかもしれない。今日の所は流石にもう退散したい。
一段落した所で立ち上がり、最後に握手を求めるブライアンを適当にやり過ごして、ギルドを後にした。
追記あとがき
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5月28日現在
週間異世界ファンタジー部門60位!!
皆様の★★★、フォロー、いいねなどの応援のおかげです!!
誠にありがとうございます(_ _;)
これからも一層励みますのでどうかまだの方もこの機会によろしくお願いします。
(まだ★の隣のレビューも随時お待ちしています。
ランキングに一緒に乗ったりしますのでできればこの作品を推してやるぞという方待ってます。)
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