第54話 希望(絶望)
ギルドを出ると真っ直ぐに寮へと帰った。
色々と回りたい所はあるが、後回しだ。
まずは装備品を外して楽になりたかった。
体を拭き、そのままベットへダイブだ。
時刻は20時前で、腹も減ってる筈だが食欲すらわかないほどの疲労感に襲われている。
すぐに眠りにつくかと思ったが、興奮で目だけは冴えて、中々寝つけない。その間に今日、そしてこの半月の出来事を反芻する。
「やったんだな、俺」
一人で満悦した気分になると、気づいたときにはそのまま就寝していた
"
最初はあくまで「退職」を勝ち取るための試験だった。
しかし今、胸に去来する達成感はむしろあの怪物レッドウイングリザードを一人で倒しきった「誇り」だったのだ。
恐怖と、そこから解放された安堵も抜け、ようやく訪れたのは自身への未来に思う「希望」
―男はもう絶望していなかった―
"
翌日、二日酔いのような症状はややあるが、体も無事に起き上がる。
時刻は8時過ぎ、こんな時刻まで寝てたとは自分でもビックリとするが、出勤は昼過ぎだ。
出勤しても溜まった帳簿のチェックがメインで他は任せていいとのことなので、まずは気持ちを落ち着かせるとそこで気づく。
「あっ、昨夜スキルブック作ってない。はあ、まあしょうがない、今から作るか」
試験は終わったのだ。
それが命取りというわけではないし、昨日はボス戦、上級ポーション2本使用、4時間ほどの徒歩と上役との今後の打ち合わせもあったので、限界だったのだ。
軽く腹ごしらえの準備をしたら、そのまま「スキルブック作成」を使用する。
少し考えてから取得したのはジョブ「運び人《ポーター》」のジョブスキルレベル1の『アイテムボックス』とした。
ギルドに出勤する前に、先に寄りたい所があったのだ。ユーリーのアイテム屋だ。
戦闘スキルを急ぐ理由はなくなったし、借りていた魔導具袋の返却と「ソーマのポーション」を使ってしまったからな。
ユーリーに借りがあるままというのは恐ろしいので、とっとと支払っておこう。
試験が予定よりは早く終わったこともあり、金貨30枚程度ならギリギリ払える額だ。半月後には退職金というアテがあるので問題ない。
中へ入ると、今日の店番はルティアさん。ユーリーは奥だというので工房の前から話しかける。
「婆さん、俺だよ。タナカです。入っていいかな?」
「ん? ダンジョンは終わったのかい。まあいいよ、入んな」
許可を貰い、中へと入る。
「ああ、ダンジョンは攻略した。これからは晴れて冒険者だ」
誇らしげに答えると
「ふ〜ん、もう攻略ね〜。まあいいや、それより冒険者になるってまた似合わないことするねー」
「なんだよ、悪いか? もう馬車馬のように働くのは疲れたんだ。自由に生きようって決めたんだよ」
「悪いとは言ってない。似合わないと言ったんだ。
アンタは自由よりも、誰かに頼られたいっていうお人好しだからね。商売人も合わないし、職員がお似合いだよ。
今は疲れて反発してるだけで、どうせまたすぐに同じ鞘に収まるさ」
「ぐっ、人のことをわかったように語るとは元気に見えてもやっぱり婆さんだな。それより本題だ」
やや、図星を突かれムキになったが、言い合いにきたんじゃない。仕切り直して話しかける。
「『ソーマのポーション』を使っちゃってさ。支払いにきたよ、それとこれも助かった」
予め整理しておいた古い魔道具袋を返して、金貨を用意する。
しかし、今回の試験では本当にユーリーには助けられたな。
それまでは職員として一癖も二癖もある取引先のごうつく婆さんとして警戒していたが、長年の付き合いで信頼もあったのだ。
これは少しばかり色をつけるか―
「ああ、なんだい、使ったのかい。じゃあ、お代は金貨60枚、よろしくね。
アレは私の特別製だし、預けてただけだから値段も聞かなかったので言わなかったけど、弁償だから仕方ないね」
フッザッケンナ、このごうつく婆ー!!
「カカッ、やっぱりアンタ、商売人には向かないね。ギルドの取引と個人との取引は違う。
高くついた勉強代なんだから、しっかりと覚えておきな」
―俺は絶望した
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