第121話 潜入

 完全に日が暮れ、人工的な光のない荒野を「夜目」と「気配遮断」のスキルを駆使して櫓を目指す。

 

 深夜0時には櫓の下まで辿り着くことができた。

 物見にも勘付かれた様子はない。

 パーティーメンバー全員が「斥候」のジョブスキルを使えるのは反則的だからな。


 「変装」によって内部潜入できない以上、ここからは物見の人間を打倒することでしか侵入することができないだろう。

 魔法や近接突撃なんて騒ぎを起こす攻撃手段など取れる筈もない。

 そんな中、作戦を考える段階では弓使いの育成も視野に入れていたが、今回採用したのは流浪の民の中にいた元女怪盗というお婆さんが持っていた「吹き矢術」という変わった武術スキルだ。


「アタシは『変装』なんて便利な別のジョブスキルなんて持ってなかったからね〜、貴族の家に潜入してお宝盗むには普通の弓でも音を立てすぎる、こいつくらいがちょうどいいのさ。」


 とは本人の弁。さながら忍者のようなスキルだが今回はスキルブック作成スケジュールの都合上、俺とユキにそれぞれlv3まで上げ、お婆さんが持っていた吹き矢をラディッツオに預け複製させておいたのだ。

 斥候系に特化したユキはともかくもう一人用意するに当たって何故俺かというとまあ、その、、。

 忍者っぽいのやってみたいなーなんて厨ニ心が俺の中にあったのだからしょうがない、うん。しょうがないったら、しょうがないのだ!

 まあ実際は俺は既に「命中率上昇」のスキルを持っているのでスキルブックの効率的にも正しく、メンバーの理解も得られたので白い目で見られることはなかったが。

 

 左右に別れた高台に見張りの物見がそれぞれ2名ずつ配置されているのを確認すると、一旦二手に別れ合図を取り合い、同時に吹き矢で仕掛ける。

 矢にはユキの「毒調合」による麻酔針を使い耐性がなければすぐに昏倒する筈だ。


 この作戦などからラディッツオには甘いと思われたのかもしれないが、敵が黒と確定したわけでもないこともそうだが、なにより作戦の成功率的にも相手を殺す毒よりも麻酔のが静かに倒せて有利と踏んでの判断だ。

 だが、確かに今まで何処かに甘い判断が紛れる部分はあったかもしれない。今はソロではなくパーティーとして行動しているんだ。

 そのあたりキツめに自身を律する必要はありそうだ。


 慎重を期して吹き矢術をlv3まで上げていたこともあり、それぞれ2名ずついても難なく一発必中の連射で高台の制圧は完了した。

 元々は対魔物を想定した物見だろうからこれだけ気配を殺した人間の襲撃には脆さがあったのだろう。


 すぐさま高台に登り、ここでようやっとこの邪神教団の集落の全容を把握する。元々あった簡素な櫓跡地にそれなりの人間が住めるように増築された集落が見て取れる。

 広さから考えると200~300人は住んでいそうだ。


「ん?何だは?」


 双眼鏡を用いて集落を観察している俺が側にいるララとエレイシアに向けて呟く。

 集落の一番奥には簡素な集落の家とは違う立派な祭壇のような物が見て取れたのだ。

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