第122話 祭壇の主
「私にも見せてくれないか。」
エレイシアの言葉に使っていた双眼鏡を渡し確認させる。
「確かに伝え聞く東国の祭事に使う道具と似ているようにも見える。
が、あれだけ特別さを出しているんだ。ここの『守り神』を自称する魔物はあそこに住んでいるのだろうな。」
鋭い目つきのまま祭壇の方角を睨みつけるエレイシア。この数ヶ月でのラディッツオとの特訓、スキルブックでの強化とレベル上げにより既に彼女は一般的なAランク冒険者を超える実力まで辿り着いていた。
風貌からはその自信、いや彼女でいうなら実力に対する自覚からくる責務感といった所か、そんな物が滲み出ていた。味方としては頼もしい限りだ。
さてこちらの二人の物見はこのまま縄で体と口を封じて放置しておき俺達は反対の方と合流だ。
向こうの見張り達はユキによって睡眠から起こされたうえで自白剤の毒物を飲まされ教団の情報を聞き出している筈だ。
「そっちの首尾はどうだ、ユキ。」
「ええ、そっちがゆっくりしてるからもう大抵のことは聞き出したわよ。住民の総数は250名ほどだって。その中で戦闘系のジョブ持ちは50名ほど。
実力的にはいいとこCランク冒険者程度で大したことないそうだわ。強い魔物からはここの『蛇神様』が守ってくださるんだって。」
蛇神様とはまた随分と王道な敵がきたじゃないか。祭壇に住み、人に恐れられ、また信仰されることで神域に辿り着く魔物とか、前世の日本でもよくありそうなお話だがそれが目の前にやってくるとはね。
「話を聞く限りかなりヤバい奴みたいよ。この人数しかいないのに月に一度生贄として人間の赤ん坊を要求するらしいわ。
その代わり、他の魔物から守ったり、ときには雨を自在に降らしたりして豊穣の神様でもあるみたい。
一番気持ち悪いのはお酒も作らせて献上させてるらしいけど、そのお酒の一部に自分の尾の漬けて一晩置いた酒を住民に振る舞うと長寿と性欲向上と狂乱の効果があって、乱痴気騒ぎのおかげて月に一度の生贄を用意してるって話かしら。
何でも50年前に追放された人間がまだ現役らしいわよ。」
身震いする話だが何より15歳程の少女が何の恥じらいもなく、淡々と今の話をするのはおじさんとしては何か良くないなと思っちゃったりしますがっ!
まあ、今さら異世界の倫理観をどうたらいっても仕方ない。
ラディッツオに釘を差されたばかりだからな、こんなことで狼狽えても仕方ない。
現状の解決に目をやろう。
「それで街の結界への破壊工作については何か喋ったのか?」
「それについては肯定も否定もせず、単に知らないらしいわよ。下っ端の物見には知らされてない可能性もあるし、白の可能性もあるわ。
で、タナカさんはどうするわけ?」
ユキの問いかけに俺は
「当然、蛇神を倒す。破壊工作の容疑はどうあれこの魔物は確かに邪神だ。
俺達の経験値になってもらおう。
その後に教団の幹部にでも吐かせるさ。これ以上内部に侵入すれば住民はともかく魔物には感づかれるだろう。
なら先に蛇神を打倒したほうがその後の教団の制圧もやりやすいだろうしな。」
「だが蛇神との戦闘を住民達に邪魔されるのは厄介だぞ。」
メイスの問いかけにも即答する。
「勿論そのことも想定済です。リスクもつきますがそれを最小限にする例の策でいきましょう。頼んだぞ、ララ。」
「はいっ、」
ララの顔にも緊張が走る。今までと違い彼女にも主戦力として始めから期待させてもらう。
ここから祭壇まで約二キロ。今の俺達なら1分で詰められる距離だ。
どうせ住民より先に相手するなら奇襲のつもりで一気にやってやろうじゃないか。
神を名乗る蛇、もし本当に神域に到達しているなら間違いなくSランクの魔物だ。
―このパーティーの真価が問われる戦いが始まろうとしている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます