第145話 限界の、その先―

 俺達の復興都市―リードライトが近づく中、遂に黒龍―クリカラの背中を見つける。

 背中といって他のズングリとしたドラゴンと違い、前世でいう東洋の長い龍でその体を器用に畳んでいる。

 なんと形容すればいいか難しいが、黒炎の直柱の火柱があり、それに巻きついているような姿だった。


 あの黒炎の正体ははっきりしない。あんな姿でも移動速度は俺達と同等か、それ以上なのだから恐れ入る。

 他のドラゴン達のような翼もないし、俺達のように飛行魔法を使っているのだろうか?


 まあ、わからないことばかり考えていても仕方がない。

 前回と同じように奇襲を仕掛けたいが敵が待機している状態でこちらが追っかけていたのもあり、今回は魔法の範囲より先に気づかれてしまったようだ。


「ほう、同胞達をさらに殺めたのか、、。同胞ではあるがやはり我らは徒党を組むものではないな、、。『龍神』とは孤高でなければ到達し得ない境地だ。その力、お前たちにも見せてやろう。」


 黒龍クリカラの念話が頭に響く。そして黒炎の柱に巻きつけていた胴体を開放する。

 

「約束の開戦日時まではまだ少し時間があるが、その時になればこの力をあの街にも振りかざそう!」


 そう告げると、顕になった黒炎の中から巨大な剣が出現する。おいおい、なんだよ、あれは。


「とにかく散れっ!どうなるかわからんがヤベーぞアレはっ!!」


 野生の勘ですぐさま声を上げるラディッツオ。

 そしてゆっくりとだが、大剣が振り下ろされてゆく。まだ攻撃魔法の範囲外な上、とてもじゃないがプロテクトなどの受けでどうにかなる雰囲気ではない。



 ―今、目の前で起きているのは神話の1ページ。

 かつてのSランク冒険者達の「英雄譚作成」の際に聞いた、どの逸話よりもスケールが桁違いな出来事が起こっている。

 視認と頭の理解が一致してこない。


 転生してから二十年も立った今になって異世界転生そのものが長い夢だったんじゃないかと思えてきてしまう。

 いやいや、走馬灯を振り払う。

 現実逃避はヤメロ。仲間達の声で我に返り、必死に大剣の軌道から横へ逸れ―。


――――――――――――――――――――


 そこからの記憶は曖昧だ。轟音によるものか、はたまた辺り一帯を覆う砂塵で呼吸ができなかったのかはわからないが一瞬、確かに気を失っていたようだ。


「おい、みんな無事かっ!!」


 外傷はそれほどではないが、衝撃波だけで吹き飛ばされて、自分の居場所もわからなくなっていた。

 必死に仲間達を探して声を上げるが、応答はない。

 

 ――、なんだよ、これは。秘策がどうの言ってる場合じゃないぞ。

 メデスの奴、これのドコが俺達にちょうどいい敵だよ、フザケやがってっ!!


 自称の神で人間を恐怖で崇拝させていた蛇神ジャレフとは違う、本物の『神』の力。

 広大な森の中、人間が見つけたダンジョンへの道程には決して現れない本当の森の強者。


 その強さはダンジョンのゴーレム同様、今までの人類では到達できなかったの、さらにその先の存在であることを一振りでわからされてしまう。


「タナカかっ、無事のようだな。」

「タナカさん、これって、、。」


 声を張り上げて仲間を探していると、エレイシアとララと合流できた。

 振り下ろしに時間があった分、避けることはできたようだが反対側へと逃げたラディッツオ、メイス、ユキの3人の姿は見えない。


 代わりに見えるのは文字通り、一撃の爪痕。

 一直線に伸びるそれは数十キロにも渡り、抉られた地面の深さは一見だけでは推定できないほどに深い。 黒炎の剣の一撃の威力は人類のと言われる殲滅魔法すら完全に上回っていたのだ。


 この爪痕はリードライトとは反対方向へと伸びている。もし、これが街へと直撃すれば、、。

 今の俺達には防ぐ手段など存在しない。


「さて、絶望たる力の差は理解できたか、主の敵らよ。それでは始めよう、絶望の続きを。」


 黒龍クリカラの念話が響く。

 今の大剣は物理的には支えておらず、振り下ろされたままになっている。

 流石の黒龍クリカラでも消耗や、何らかの制約、リスクがなければ連発は不可能だと思いたい。だからこそ、今すぐにでもコチラから仕掛けたい。


 クソっ、三人はどうしてるっ!

 このまま俺達だけで仕掛けても有効打が決められるとは思えないが、それでも――。




「グッ、GRAAAaaar!何だ、この力は!!」


 俺が無謀な特攻をも考える中、突如として黒龍クリカラの苦しみの鳴き声が響く。これはっ、


「驕るなよ、よ。勝手に人間のを決められては困る。」


 変わらず鎮座していた黒龍クリカラの手前に、一人の男の姿が見える。どうやら今の一撃の砂塵の間に距離を詰めたようだ。


 ―大胆不敵。否、敵が強大であるからこそ、こちらもリスクを取ることが求められるのだ。

 問題はそれを躊躇なく、実行できる勇気と意思。 

  何より、その行動を取るだけの有効な策があってこそ――。


 人類の限界では届き得ない、の存在。

 しかし、神が人類に干渉していたこの世界の神話の時代には確かに、その神々にも通じうるスキルが存在していたのだ。


 この時代、例えSランク冒険者でも届かないとされている、確かな壁。

 今、神の侵略の前にその限界を超えた者がいた。


神縛りの鎖レージング!!」


――『魔法使い』ジョブレベルのスキル。

一人の男の執念が、神にすら届きうる瞬間だった。

 


 

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