第31話 彼女の事情

 予期せぬ状況に混乱しつつも、今の状況はマズイと彼女の肩を取り、距離を取る。


 「ゴメン、ララさん。話が見えない。」

 

 正直に伝えると、


「ご、ゴメンナサイこちらこそ、急に私。

 その、困って頼れる人が近くにいなくて。それで、タナカさんの顔がよぎったら話を聞いてほしくて、それで、待ってたけど留守で、、。」


 たどたどしく話すララ。


 どうやらいつ帰るかわからない俺をずっとここで待っていて不安になっていたようだ。

 話はまだ見えないが取り敢えず落ち着かせる。大方ギルドで何かあったのだろう。


「話なら聞くから場所を変えよう、ねっ。」


「あっ、はい。これじゃあ子供扱いされても仕方ないですね。それと、その格好。噂は本当だったんですね。」


 ゲっ、外から帰ってきて当然装備を着たままだ。


 噂というのも気になるがこの格好で街中を歩き、取引先にも客として顔を出してるんだ。

 冒険者たちにも多少は顔を覚えられているし、仕方ないか。


 ただ、この格好のままで彼女と一緒なのは恥ずかしい。冒険者4日目ではまだ垢抜けていないのは許してほしい。


「部屋で着替えるからちょっとだけ待っててっ。」


 恥ずかしさから慌てて部屋に入り、普段の外行きの服に着替える。と、そこで記念の魔石が目に入った。


「彼女の話を聞いてどうするつもりだ、俺。」

 

 1人呟く。俺は今職員ではないし戻る気もない。

 しかし、俺のせいで彼女に何かあったとしたらそれは知らぬ顔をしていいことなのか?


 答えがわからず着替えた服のポッケに魔石を仕舞い、外に出る。取り敢えずは話を聞いてからだ。

 腹も減っていたし、少し早いが今回は別の飯屋へと連れて行く。お互い食事をとり、落ち着くと話を再開させた。


「タナカさんが職場から離れてだんだんと職場の雰 

 囲気がおかしくなって。マイヤーさんが怒鳴りながら私達に仕事を振ってきたり。

 それはまあいいんですけど、それを見ていたブライアンさんが今朝、仕事前に私を部屋に呼んで

 『君を、君のお父上の元に返そうと思ってる。それと1ヶ月ほど休暇を出すから羽を休めてくれ。』って。」


 ようやく話の全体が見えてきた。ギルドの混乱で彼女を保護するのが難しくなるのを恐れ、何か事が起こる前に戻ってもらおうということか。

 しかし、入社してまだ長くはないが優秀で唯一、真面目に働く受付嬢だ。

 彼女まで失えば崩壊はすぐそこだろう。コネか顔採用でしか受付嬢を見ていないブライアンではそのあたりの実情を把握していなかったか。


「約束は3年だったのに。私、戻ったらもう外には出られないんです。顔も知らない評判の悪い公爵家の人間との婚約も決まっていて。」


 前世ではもう見かけなくなったこの世界の悪い部分が出てきた。

 が、それは俺にはどうすることも、、、。


「ゴメンナサイ、私ってホントズルいですよね。

 こんなこといってもただ、タナカさんを困らせるだけだってわかってるのに。

 でも、タナカさんは優しいから、、。いつも自分を犠牲にしてでも誰かのために働いて。

 何もできなくても一緒に悲しんでくれる、苦しんでくれるって。」


 それで、一人で耐えられず、俺のところまで来たのか、、。


「って、ええっ、。どうしてタナカさんが!あっ、あの、私どうしたらっ。」



 急に彼女が困惑する、無理もない。突然目の前の中年の男性の目から涙がこぼれたのだ。


 

 それは、彼女のことを思っての涙ではなかった。






あとがき

―――――――――――――――――――――――――――――――――

今回と次回は少し毛色の違うお話となっています。


ただ、ここで彼のザマァを享受できない社畜根性のウジウジともおさらばなので少しだけお付き合いください。


 その後は一気に試験攻略へいきたいと思っています!

 

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