2章 臨時冒険者登録試験

第18話 装備

 翌朝、それなりに飲んだが体調は悪くない。

 解放感が違う。ただ、朝は勝手に早くに目が覚めるがそれでいい。


 今日はまず、装備品を整えたりしなければならないが、その前にやらなければいけないこともある。

「自動手記」を使い、職員の頃に確認していたDランクダンジョンの情報を雑紙に書き写す。


 「自動手記」は思い出せなくても知識として頭にいれた過去があれば書き出してくれる。

 戦闘以外には本当によく使えるスキルで、他のジョブでも5というのは1つの区切りらしく、得てして強いスキルが手に入るようだ。

 その後6、7は落ちて8、9は方向性は違えど流石に高レベルで強くなり、レベル10で手に入った「スキルブック作成」は完全に壊れ性能だ。


 おそらくだが、他のジョブでも10は同じようにチート級な気もする。

 手に入れた事実がないからわからないが、錬金術師なら不老不死の薬やら、魔法使いなら核クラスの攻撃とか。


 しかし事実はないといったが、スキルブックだけは「地底古代文明ダンジョン」に存在するんだよな。


 かつての古代文明にジョブレベル10がいたのかどうかはわからないが、いつかこの最高難易度のダンジョンに挑み、その謎の答えを探すのを俺の冒険者としての最終目標にしよう。


 話が逸れたがまずはどのDランクダンジョンに挑むのか決めなくては。

 俺だってすぐに装備とアイテムを整え、冒険に出てみたいが俺のジョブは「書記」。


 愛と勇気と根性でミラクルを起こせる「勇者」ではないので、時間と計画と進捗による調整で成り上がるのだ。


 なにせスキルブック作成のクールタイムは1日で期限は30日、焦ってもいけないが何をどう取得していくかが攻略の鍵となる。

 なれば、ゴールからの逆算で装備も含め考えねばならないだろう。


 まずは単純に攻略の時間がかかったり、はたまたトラップが多いがアイテムが美味しいタイプのダンジョンは除外する。

 必要なのはむしろ魔物がソロで倒しやすく経験値効率がいいダンジョンだ。


 とにかく俺の課題は通常レベルのアップによるステータスの上昇と、最大MPを上げることで戦闘系のスキルブックを作成できるようになることだ。


 いくつか候補を絞り、その中で方向性が見えてきた所で日も完全に昇り、俺は街の武器屋へと足を運んだ。

 このお店も職員として関わっていた場所で、気の難しいドワーフが鍛冶職人をしており、裏に工房がついている。


 いつもは裏から入るのだが、今日は昨日の帰りに受け取った冒険者カードを片手に表から入る。


 「ごめんください」

 とお店側に出ているお弟子さんに声を掛ける。


 あいにくと職員としての知識では武器の良し悪しはわからない。わかるのは素材の等級程度。素直に店員に聞くとしよう。


「あっ、職員さん。何で表から?いや待っててください、今オヤジ呼んできますから!」

 

 と、話も聞かず裏に走っていく。


 こいつらドワーフはホント人の話を聞かねーな。ちなみにオヤジというのは鍛冶の世界の師ということで親子関係というわけではない。


「なんだオメェ。表からとはどういう了見だ。」


 ノソノソと矮躯ながら迫力ある登場をするのはここのボスであるホッカだ。


 口も悪いし、気も難しくて入社して数年はここに来るのも嫌だったが、根気よく付き合っていると悪い人ではないし、なんとかやれている


「悪いねオヤジさん、出てきてもらってすまないが今日はただの客なんだ。

 つーことで店員さん、金貨50枚ほどの予算でCランク軽装剣士くらいの全身見繕ってくれないか。」


 ソロでDランクダンジョンの攻略を目指すならフットワークの軽いCランククラスはいるだろうと踏んだ。


「チっ、無駄足かよ。つか何の冗談か知らねーがお遊びなら辞めときな。」


「お遊びに見えるかもしれないけど本気なんだ、頼むよ。」


 冒険者カードを見せて客だから売れということもできたが、逆効果になりそうなのでやめておいた。


「フンっ。オイっ、俺は奥に戻るからな!」


 っとお弟子さんの肩を強めに握ったかと思えばそのまま奥へと引っ込んでいってしまった。


 残ったお弟子さんが剣から篭手、小盾やら胴装備と色々と持ってくる。手にとって感触を確かめていると剣の刀身をみて驚く。

 この赤みががった色、職員として働いていて見ている。これはレッドワイバーンの牙が素材だろう!


 ギルド買い取りでも金貨15枚はするし鍛冶された売値はそれだけで予算に届く、全身合わせれば完全に予算オーバーだ。


「ちょっとこれはBランククラスものじゃないか、悪いが予算以上は出せないよ。」

 

 他にも一ヶ月の消費アイテムもあるのだ。

 スキルブックを売っている余裕もアテもないぞと思っていると、


「さっきオヤジ、俺の肩叩いたでしょ。良くやってやれって意味ですよアレ。

 凄いですね、職員さん。オヤジがカタギの人を気に入ることなんてまずないのに。」


 

 どうやらジョブレベル以外でもこの二十年は無駄ではなかったようだ。

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