第12話 強制証文作成
ユーリーは大きく目を開くと
「スキルブック、それも本物だねー。タイトルは『測量』と。これを何処で?」
まだ渡してもいない段階で本物と断定するユーリー。何かスキルでも持っているのか?
「驚いた『アイテム鑑定』が使えるのか?
悪いが今日は職員じゃないのでね、詮索はなしにしてくれ。」
と意味深に躱した。
この世界には『鑑定』スキルは3種類ありアイテム、魔物そして人物の『鑑定』があるそうだ。
アイテムは商人、魔物は斥候で人物は占い師が鑑定できるとされている。スキルブックを使って取得しているのだろうかと聞いてみると
「い〜や、そんな大それたものじゃないよ。
長くアイテム屋なんてやってると本物も偽物も見たことがあるし魔力を宿しているものならだいたいは雰囲気でわかるものさ。」
なんて言いやがる、怖い婆さんだ。
「まっ、初めて休みの日に訪ねてきたんだ、初見の客としてこちらも扱おうか。」
と暗に職員の部分をぼかして応対してくれるらしい。いや勘違いしてるみたいだけど横流し品じゃないからね?まあ都合がいいから訂正もしないが
「でっ、どうだい『測量』は?あれば便利だろ?」
「う〜ん、確かに本来の使い方ではないんだがあれば薬品の調合の分量を測るのに何故か使えてねってこの話昔したね?
それでここにやってきたんだろうが老い先短い婆がスキルブックなんか使ってもね。」
なんて思ってもなさそうなことを言っていると
「昼前か、悪いが店子のルティアを呼んでくれんか、お店はいったん閉めていいからと伝えてね。」
と言い出した。
どうやら彼女に使う気らしい。
おいおい関係者が増えるのはあまり良くないがと思っていると
「あの子は錬金術師のジョブも持っていて一応弟子なんだよ、調合する素材の分量も今はあの娘にやらせてるんだがあまり器用じゃなくてね。
先行投資にゃもってこいだよ。」
と言い出した。
仕方ない、こちらには切り札があるしまずは売ることが先決だ。店の方へいき彼女に声をかける。
「すまないルティアさん、婆さんが奥へ来てくれってさ、お店はいったん閉めておいてくれと。」
声をかけられたルティアが明るく返事をする。
「わかりましたっ。今お茶も持っていきますから中で待っていてくださいっ。」
the 町娘という感じの女性だが婆さんが目に掛けるくらいには将来有望らしい。
しばらく工房で待っているとルティアがやってくる、婆さんがひとしきり事情を話すと
「わ、私なんかにスキルブックをですかっ!嬉しいですけどその、お支払いができません!」
と正直に話す。
「なに、仕事の効率化のための必要経費さ、この男だって若い娘からふんだくるほど悪人でもないよ、なぁ?」
と、こちらに振る。
どうやってもこの婆さんには敵わないらしい。
俺は若い娘からじゃなくごうつく婆さんからふんだくりにきたんだが。
「必要経費っていうならアンタが出してくれ、俺はただ売りにきただけだ。
はぁ、まあ俺もあまり時間をかけて売りたくないからここに持ってきたんだし先行投資と言われたら仕方ない。破格の金貨15枚でどうだ?」
ルティアは金貨15枚という数字に絶句し婆さんはまあそんなもんかという顔をした。
いや言っとくが王都のオークションにでも持っていけば倍はするからな?
「ふう、3人で秘密を共有しようって言うんだい。
どうさね3人とも金貨5枚勉強しようじゃないか。
5枚はあたしが必要経費として出そう、ルティアの5枚は出世払いでこれも私が立て替えよう。
アンタも5枚飲んでくれるね?」
なんて本来ならありえないほどの値下げ交渉をかましてきやがった。
が、これ以上時間を使いたくないし元手がないものでこれが初交渉だ。ルティアに貸しならぬ先行投資として飲むことにした。
つか婆さんルティアには甘いのね。独り身と聞いていたが孫娘くらいには見ているのかも知れない。
「はぁ、わかったよ婆さんの口車に乗ってやる、ただし条件が1つ。
口約束には大金だし触れ回って欲しくないんでねこの書類に目を通してサインをくれ。」
これが俺の切り札「強制証文作成」スキルで用意した契約書だ。
強制証文の大まかな説明としては
①契約両者が内容に目を通しサインをする
②合意のもとのサインであり魔術、暴力、催眠などでサインさせても無効
③契約後書類は両者にしか見えなくなりその後両者は可能な限り契約を守らなければいけなくなる強制(ギアス)がかかる
④この証文がスキル強制証文であることは明かさなくてよい
⑤作成時間5分、消費MP5 クールタイム2時間
とわかりやすいものであくまで証文作成のスキルのため自身が契約者でもなくていいのだが今回は契約者に当たる。
今回は売買成立した後その場で使用し効果が確認されたらその後売買について蒸し返さず決して口外しないことだけ記載しておいた。
証文を見た婆さんは一度可哀想なものを見るような目でこちらを見、
「はあ、結局休みの日でも書類、ショルイとアンタも救われないねー。」
と無駄口を叩くユーリー。
その後サインの段階で婆さんは証文の魔力に気づいたようだが敢えて何も言ってこなかった。
あれだけ減らず口を叩きありえないほどの値下げをしたかと思えばそれでも十数年の付き合いの信頼はあったようである。
俺はユーリー含め、ジョブスキルが9を超えたことはリスクを減らす為に誰にも伝えていないが、今度機会があれば彼女にだけは伝えようかと思った。
サインが終わり、ルティアが緊張しながら本を開く。その後ステータスを確認しだすと俺はそのまま工房を後にした。
貴重な休みなのだ。
次の売却予定候補に向かうとする。
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