第11話 取り引き先

 5日後ギルマスのブライアンが王都の出張から帰還した。彼は俺を職員へ勧誘した男で20年と長くギルマスをやっている。

 後でわかったことだが俺を勧誘した頃はギルマスになってすぐのことで経営も上手くいかずてんやわんやだったようだ。


 今は内情も整理され王都での会議でも一定の発言権を得ているようで今回の会議次第では来期には本部への栄転があるのでは、と噂されていたがどうやら上手くいったようでご機嫌で帰ってきた。


 そんな中すぐにでも辞表を叩きつけたかったが、

業務が忙しくスキルブックを作った以外はまだアクションを起こせていないのでぐっと堪え不在中の確認を副ギルマスと共に報告する。


 ちなみに辞表は以前から、それこそ前世から常に懐に入れておりいつでも出せるように時折書き直している、社畜の心構えである。

 副ギルマスの領主や有力者との会談には少し耳を傾けるも俺の通常業務の話になると、


「ふむ、流石だなタナカ君、そっちは君に任せるよ。会議でも君の資料は受けが良くてね、これからも頼りにしているよ。」

 

 っと肩をがっしりと掴んだかと思ったらそのまま部屋を後にし出掛けていった。


 こんな調子で20年上手く騙されてコキ使われるのは俺にも原因はありそうだなと妙な反省をしながら業務に戻る。

 まあこんな上役だが戻って来たことで3日後には何とか俺にも月に2日の貴重な休みが与えられた。

 

「さて貴重な休み、寝ていたいがそうもいってられないな、どう動くか。」


 手元には青のスキルブックが7冊、料理2冊 裁縫2冊と測量3冊である。

 俺が出した結論は個人に売ることだ。

 表に出れば記録も残るし出処も探られる、対して個人に売れば使われれば物は残らない。


 では誰に売るかだがまず「舞踊」は売り手が思いつかなかったので作成しなかった。

 王都にでもいけば別だがここには在中の踊り手はいなかったし低いレベルの人間がさして欲しがるかもわからない。


 慎重にいきたいので話を持ちかけたらまず食いつきそうな相手が一番だ。


 「測量」が多いのは少しアテがあったのとこの中では汎用性があるスキルだからだ。

 このスキルを持っているのを知っているのは2人でジョブは『錬金術師』と『建築士』と全く関係ない2つのジョブだが「測量」は通常スキルとしてあると便利だなくらいなものである。


 このうち『建築士』の棟梁はギルドの修繕で以前関わりがあるがレベルを上げたいような野心のある人でもなかったし堅物でもあるので内々に売却の話を持っていくのはリスクがある。

 

 ということで俺が向かったのは街の錬金術師が営むアイテム屋である。店に入ると若い店子が接客してくるが俺に気づくと店主を呼びにいった。

 ここは普段から薬草や魔石の卸先として関わりがあるお店で顔見知りである。少ししてから背の小さいお婆さんが出てくる。


「おやっ?今日は約束はなかったと思ったがどうしたんだい。」


「今日は仕事じゃなくて休みだよ、ちょっと相談があってね、奥で話せないかな。」


 と返すと少し驚いた顔で、


「アンタが仕事以外で顔を出すとは明日は雪だね」

 

  と皮肉を言われる、余計なお世話だ。


 この婆さんはユーリーといい昔は宮廷付きの錬金術師の弟子だったなんて自慢話を何度か聞いた街の錬金術師で腕もそれなりに評判はあるし割と融通が効く、というか以前から


 「横流し品はないかね?」

 

 なんて真面目に仕事する俺に話を振るようなごうつく婆さんだ。今回は相手としてちょうどいい。

 奥の工房へと場所を移し一冊の本を出しながら


「個人的に買い取ってほしいものがあってね。」


 と告げるとほとんど開いていなかった婆さんの目が大きく開いた。


 


 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る