第72話 圧倒

 一気に距離を詰め、上段から袈裟斬りにかかるエレイシア。ジョブスキルは使っていないが、盾や鎧ごと斬り捨てる気だ。

 おそらく「剛力」も持っているのだろう。


 対人戦となると威力が大きくても、固有モーションであるジョブスキルは使い所が難しい。使わなくても問題ないという判断も頷ける。


「クッ、コイツ!!」 


 しかし、その攻撃はすべてこちらの盾で完璧に受け流していた。


 試験が終わってから三十日ほど経過し、その間に戦闘系のジョブスキルや、他にも便利系のジョブスキルも取得したいたが、通常の戦闘スキルも侮らずに取得していた。


 王都での対人戦闘を想定し、「生き残ること」に焦点を当て、今使用しているのは「盾術」という通常スキルでlv3まで上げている。

 まだまだlvは上げたいが、如何せん他にも取得したいものもあり、期間が足りていない。


 おそらく彼女の「剣術」も同程度だと力量が伝わってくる。この若さでこのlvは相当量の鍛錬を行っているのだろう。だが、盾で守りに徹していれば崩されることはない。


「バカな、何故受けきれる。だが、決闘と言い出したのはそちらだぞ。受けるだけじゃなくかかってこい!」


 俺を挑発するエレイシア。当然、勝つつもりだ。

 だが、俺にはいくつか条件がある。


 ただの勝利ではなく圧勝し、この男ならば協力してもいいと思わせなければいけない。

 また深手を負わせることも避けたい。今後の行動に影響が出てはいけない。彼女を失うことなど本末転倒だ。


 ついでに勝った後の話し合いでこちらの話を素直に聞くように、ケガは駄目でも疲弊はたっぷりとしてもらおう、ということで打ち疲れてもらうまで剣を受けていた。


 彼女は最初こそこちらを見下すようなことはなく丁寧に応対していたが、一度敵と認定してからは言葉も態度も乱暴で、このままでは話し合いも骨が折れそうだしね。

 かなり直情的な性格をしているみたいだ。


 ついにしびれを切らしたエレイシアが剣撃ではなく鍔から盾にぶつかり、こちらの盾を弾こうとしてくる。こっちはもう片方に剣を持っているのに無茶をするもんだ。


「なッ、クッッッー!」


 だが、「剛力」lv7まで上げたコチラはビクともしない、そのまま剣ではなく盾でエレイシアは練武場の壁までふっ飛ばされ、止まる。

 衝撃で動き出せない彼女に対して距離だけは詰めておく。追い詰め方を誤って、ジョブスキルを使われるとお互い無事で終わるのが困難になるからな。


 よろめきながら立ち上がるエレイシア。


「どういうことだ、実力を隠して生きてきたとでもいうのか。こんな…… 、こんな男に負けては騎士の恥だ。ひと思いに止めを刺せ」


 今の吹っ飛ばされただけで実力差を知り、諦めたようだ。思いの外あっさりのようだが「剛力」もlv7までくれば人間の域を超えてきたのを感じている。

 今の俺の通常レベルはこの十日で更に上げ、37まできたがおそらく彼女との差はほとんどない。それでも単純な腕力だけでもレベルなら30近いステータス差を感じただろう。


「それでは話が違います。こちらの言い分を聞いて貰う約束の筈です。何よりこの敗れがあなたの恥?冗談じゃない。あなたが彼女の騎士だというのなら戦うべき相手は他にいるじゃありませんか」


 決闘に敗れ.心が折れかけているところに強引に話を持っていく。

 元々無理を押し通す交渉なのだ。見たところ、かなり熱くなりやすい性格のようだし、ここは理屈より熱意だけでこのままゴリ押しだ。


 何より、俺自身もこの世界の貴族主義やらお家主義は肌に合わず辟易していた所だ。この世界においては俺のほうが間違っているんだろうが知ったことか、俺は俺の中の正義に従うだけだ。


 もう時刻は遅く、周りに他の冒険者たちもいない。このまま場所を変えず説得を試みる。

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