第139話 黒龍と智龍

 忙しない時間が過ぎ、メデスとの戦争協約を交わしてから既に十日目を迎えていた。


 俺達、パーティメンバーはというと蛇神との戦いの跡地である教徒達の元集落へとやってきていた。

 重ねた協議の結果、リードライトでの全面迎撃ではなく、ここで一度最高戦力の俺達がぶつかり、それとは別に街でも迎撃準備を整えることとしたのだ。


 そのまま迎え討っては街への被害は甚大になる可能性が高いからな、、。ただその分俺達パーティーの危険度が上がっているのも事実でリスクが上がる選択肢だった。


 しかし、その事実とは裏腹にこの行動には街の住民が不安がり、反対もされた。

 その気持ちもわかる。散々ドラゴンが攻めてくると煽られた挙げ句、俺達が街から離れるというんだ。残っている間に迎撃準備と説得も誠実に続けることで何とか理解も得られたが。


 何と言っても彼らにも選択肢はほとんどないようなものなのだ。皆、知っている。

 ミスリルの結界と壊れていないアダマンタイトの城壁を持たない我々追放者には元々安全な場所など何処にもないことを。


 櫓を中心に陣取り、まずは敵戦力の確認からだ。

 時間があれば本当はここにも迎撃の準備もしたいところだったが敵は飛行能力と強力な魔法攻撃を持つドラゴンだ。

 多少の付け焼き刃など無意味なのでこちらもここは守るべき場所ではないと野戦上等の覚悟で迎え討つ。


 森の方角を双眼鏡を用いて櫓で交代で見張り、確認する。斥候としてユキを向かわせるのも敵があまりにも強力なため、やめておいた。それでも発見してからはまた彼女の出番だが。


 メデスとの協議の中でも今回の戦力数も探って見たが、


「私は龍神クリカラに声を掛けるだけよ。普段は森の奥でひっそりと寝ているけれどとして信仰しているドラゴン私のペット達も多いから総勢がどうなるかは知らないわ。」


 と半ば投げやりな答えだけだった。

 だからぁ、ちゃんとそこらへんしっかり決めようよ、っと言いたかったがの戦いもあるためこちらの戦力もすべて話すことはしたくなく、そこはこちらが折れた。


 結局、わかったのはクリカラという名前と森に住まうA~Sクラスのドラゴンが神と崇める恐ろしい怪物だということだけ。そうして、、


「きたわっ!!敵の動きが早いからそんなに時間ないわよっ!!」


 都合よく斥候スキルを伸ばしていたユキが見張りの早朝にその時はやってきた。


「敵の数は17、18、、21体まで確認っ。強さも大きさもあの蛇神の1ランク下くらいだわ。その後ろ、、のは別だけどね、、ハハッ、タナカさん。やっぱり逃げるって駄目?」


 櫓から上空へと飛び出し、敵戦力を把握する。

 ユキには斥候のジョブレベル7のスキル「魔物鑑定」も覚えさせており、そのまま双眼鏡で確認したところでそんな絶望の答えが返ってきた。


 ユキの声が震えている。冗談めかしてはいたが鑑定を用いて知った情報は一人の少女には重すぎるほどの戦力差を感じたのだろう。


「却下だ。私を信じなさい、ユキ。タナカ、では行ってくる。」


 震えるユキの肩を空中で軽く叩くとメイスが前へと出る。

 その姿には一切の怯みはなかった。


 空中に出たことで俺達も既にを目視している。もはや龍と形容していいのかわからないほどの絶望の漆黒の塊。

 大気さえ歪み、破壊しかねない黒い炎を纏い、数十体のドラゴンを従えこちらに近づいてくる黒龍。


 ―そんな、この世の終わりのような光景でも尚、揺るがないものがある。


 遂に周囲への被害という制限を解除され、全力全開の智龍人類最強の魔法使いが今、出陣する。

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